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ホワイトプラン。

 

パレードがすべて通り過ぎると、アトラクションへ向かう人、パレードの最後尾を追いかける人など、皆思い思いに散っていく。


 私たちも特に次の目的があったわけではないけど、何となくランドの中心に向かって歩きだす。

 そして間もなく。

 何となく嫌な予感はしていたが、まさかと思う気持ちで封じ込めて、四人とも後ろ振り返らずに黙々と足を進める。

 しかし、そのスピードは徐々に速くなっていき、速さと不安に耐えられなくなったお兄ちゃんがついに振り返り、「ふぃっ!」と小さな悲鳴をあげたことで私たちの予感が確信に変わる。

 追われている。

 ひとりや二人ではない。十人以上。いや、もっとだろう。

 こういうのは一回数が増えると、その先頭に何があるかわからなくてもその後に続くのが群衆の心理というやつである。


 思えば、パレードの観覧席で目立ち過ぎた。

 みうちゃんのされるがままにプリンセス加工された上に、笑顔を振りまき過ぎた。

 早い話、かわい過ぎた。


「お、おねえちゃーん」


 弱音を吐くお兄ちゃんの声に応える代わりに、お姉ちゃんはショルダーバッグから折りたたんだ紙袋を取り出してお兄ちゃんに手渡す、

 それを受け取ったお兄ちゃんは、一瞬ためらってお姉ちゃんの顔を見上げるも、すぐに意を決したようにそれを頭からずぼっとかぶった。

 仕方ない。これ以上、目立つわけにはいかない。


 芸能人でもないのに、紙袋を頭からかぶるほうが目立たないなんて、どんだけかわいいんだうちのお兄ちゃんは。

 宗教を起こせるんじゃないだろうか。


 お姉ちゃんが、紙袋をかぶったお兄ちゃんを小脇に抱えると更にスピードをあげて歩き出す。

 決して走ってはならない。

 走ればよけいに目立つし、走れば向こうだって走る。

 普通の人は経験することはないだろうけど、集団に追いかけられる恐怖というのは半端ない。

 お姉ちゃんの足が地面に着く度に紙袋の中から、「ん、ん、ん、ん、ん……」とうめき声が聞こえる。


 私たちはゆるいUターンを切って、入口ゲートの方へと引き返す。

 そしてインフォメーションコーナーへと入るなり、


「かくまってください!」とお姉ちゃんが声をあげる。


 この夢と魔法の国において、「かくまってください」などというセリフはものすごく違和感があった。

 いや、そもそも人生においてそんな言葉口にする人などほぼいない。


 しかし、インフォメーションコーナーのお姉さんの対応は迅速だった。

 端に座っていたお姉さんがイスから腰をあげると、


「こちらへ」 


 と、自分たちの背後にある扉を開ける。

 そして、もう一人のお姉さんは追いかけてくる人たちの対処へと回る。


 この対応の俊敏さには理由がある。これが初めてではないからだ。

 以前、これよりももっと手遅れな状態になった際に、何かあればインフォメーションコーナーに掛け込むように言われている。

 向こうだってさすがに、「あなたはかわい過ぎるので出入り禁止です」とは言えない。


 まだ撮影は終わっていなかったが、ロッカーに預けてあった普段着をお姉ちゃんから受け取ると、インフォメーションコーナーの控室で着替えさせてもらう。


 ドレスを脱ぐと三人とも白のロングキャミ姿になる。

 しっかし、白のキャミと金髪って何て合うんでしょう?

 さらさらのポリエステルサテンと同じ触り心地がしそうな白い手足が美しく伸びる。まさに天使降臨だよ。

 それに比べてと自分の体を見下ろす。

 丸っきりアルプスの少女だ……ああ、草原駆け回りて……。


「ふぁひゅっ!」


 そんなかわいい声に顔をあげると、花咲がお兄ちゃんの腕を取って、撫でまわしているところだった。


「あ、あんた何してんの?」


「いや、さらさらだなぁと思って」


「だ、だからって、」


「セリカも触ってみろよ」


「うん」

 

 素直が一番。

 花咲とは反対側のお兄ちゃん右手を取る。

 さらさらというか、すべすべというか、つるつるというか、何という新素材!

 お兄ちゃんが、ケニアの動物か何かだったら間違いなく乱獲されてるね。


 私たちに腕をさすられながら、くすぐったそうにしながら、「んッ……ああ……」と声をあげるお兄ちゃん。


 もう指の先から、肩までのラインを舐めたい。

 きっと天然の塩味とお兄ちゃんの肌特有の甘さが相まって、独特の味わいがお口の中に広がるよ。


「ふぁっ! ふぁ、ふぁな咲さん、ちょっと……あの……えと……」


 お兄ちゃんが先ほどとは違う声をあげたかと思うと、その白い頬がみるみる薄桃色に染まっていく。

 そのグラデーションの美しさにため息を漏らしつつも、花咲の方をみると、お兄ちゃんの左腕が埋まっていた。

 花咲の谷間に。


「あんた何してんの?」


「いや、セイラが動くから捕まえてただけだけど」


 花咲からお兄ちゃんを引っぺがすと、何でもないかのように花咲はそう言った。

 あんなに大きいものを備えていながら、まったく自覚がないというのがまた腹立たしい。

 

「あんた、スポブラはどうしたのよ?」


 今日のドレスを着るにあたって、お姉ちゃんから支給されているはずである。


「ああ、何かやっぱ恥ずかしいっていうか……な?」


 その方が恥ずかしいよ! 何かやらしいよ! 色っぽいよ! 

 くそー! 何かこの中で私だけがしょぼい!

 違うんだけど。

 私が小五として真っ当なだけなんだけど!!


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