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愛のメロリー。

「なあ、カスお前が思っているほど小学生は甘くないぞ?」


「あ、甘くない……ごくり」


「ごくりってなんだ?」

 

 そこで、「あの……」と、そろりロリロリした声が割って入る。

 小学生の私でもあんな声でないよ。

 

「あの……カスじゃありません」


「え?」


「カスじゃなくてカゾです。加須市のカゾ」


 一瞬、兄をコケにされて怒ったのかと思った。

 そうか……カスをカスとしか認識していなかったけど、元は苗字だった。


「ああ、すみません……思わぬ形で來海さんまで貶めることになってしまいました。じゃあ、今日からロリって呼ぶことにします」


「何で僕は貶める方向に持っていくの? 僕にもちゃんと下の名前があるんだよ?」


女幼児(ジョージ)?」


「何そのドキュンネーム? 音聞いただけで頭に漢字が浮かんだよ。ってか、生まれながらに犯罪者扱いしないでよ!」


「生粋のペドっ子でい」


「江戸っ子みたいに言われても、それただのどうしようもない人だし。僕はペドじゃないよ! もちろんロリでもないよ!?」


「ペドロ」


「合体した! ロリペドと同じなのに、スペイン人みたいでちょっとかっこよくなった!」


「ペロリ」


「打って変わって、二つの意味が重なってものすごく最低な響きだ! ってか、もう名前じゃない!」


「ペリー」


「開国させる!」


 カス、元気だな。


「じゃあ、なんて呼んでほしいんだ?」


「あ、じゃあ、おにいちゃ」


「ふざけるな。寝ぼけるな。生まれるな」


「出生からダメでしたか……」


 この世で私がお兄ちゃんと呼ぶのはただひとりだ。

 仮にお姉ちゃんが結婚しても、相手を兄さんとは呼ばない。


「お兄ちゃん」


 とは來海さん。


「何だ?」


「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!」


「急に何だ?」


「嬉しいですか?」


 そう言って、主人に懐く犬のようにカスを見上げる残念な妹。


「お前はバカか? 実の妹にお兄ちゃんって呼ばれて何が嬉しいんだ。ってか、いつもほとんど変わらないじゃないか」


 私ならこんなかわいい妹にお兄ちゃんと呼ばれたら萌えて悶えて揉みまくるな。


「じゃあ、どうしたら兄さんは嬉しいのですか? 來海わかりません。兄さんのせいなんですよ! 來海の背が伸びないのは!」


「何でそうなる?」


「兄さんが、ロリコンさんだからですよ! 兄さんを喜ばせようと思って來海は自ら身長を止めたのです!」


「お前、すごいこと言うな。お前の身長が伸びないのは母親の遺伝だろ」


「では兄さんは、來海が身長百八十センチの巨乳で、くびれるところはくびれて、八センチのヒールでカツカツ歩くような妹になってもいいのですね!」


「…………」


 なぜ黙る。

 そして來海さんもなれないよ? もう。

 そんな中、園内放送で午前のパレードのお知らせが流れる。


「ほらっ、兄さんがぐずぐずしてるからパレード始まっちゃうじゃないですか!」


「どうせとっくに人いっぱいだって」


「そんなことないですっ! もぉー!」


 そう言って。カスの腰の辺りをポカポカ叩く來海さん。

 見た目と中身がそれなら、もう小学生でいいんじゃないだろうか……。


「わかったわかった、じゃあ、遠くからだけど肩車してあげるから」


「ほんとに!? ほんとのほんとのほんとのほん、ほん、ほはん……」


 あざといくらいかわいいのに、この反応を向けた相手だけが残念でならない。

「っつーか、こんな清楚系ふわりワンピの下に頭を突っ込むなんて、ましてやあの細っこい太腿を両頬にピッタリくっつけるなんて、首の後ろに肢体の温もりを感じるだなんて、落ちないように頭にぎゅっと抱きついてもらうと、おそらくノーブラであろう、あの微小で希少な膨らみを後頭部に感じるだなんて、すごい高過ロリー! もうそれだけで元気玉何発でも撃てちゃうよっ! とか思ってるんだろ、このロリコン! テロリスト! ドロリッチ!」


「妹を肩車するのにそんなこと思うわけないじゃないか! ってか、セリカちゃん熱くなり過ぎだよ」


「そ、そそそそうですよ! そんなことあるわけないじゃないですか! 頑張ります!」


 頑張っちゃうんだ……。


「あと私ブラしてますから!」


「なんてノーエコロリー!」


「ええー……」


「需要に応えろとは言いませんが、海を埋め立ててピラミッドを造るようなマネには私は断固として反対します。どんなに貧しくたって、私はそんな大人にはなりたくない!」


「そうだぞ」と、カスが割り込む。


「登山が好きな人間もいれば、どこまでも平坦でまっすぐで、中腹あたりがぽちゃっとしてて、その先はなだらかな丘――」


「それ以上言うな。私の方見て言うな。帰ったら退職届書け」


「ご、誤解だよセリカちゃん! 僕が言いたいのは『そこには何もないがある』ってことだよ」


「そこってどこだ。だからって目で()すな。お前、帰りに絶対タウンワーク拾って帰れな」


 カスのダダ漏れの欲望に嫉妬した様子で、來海さんがその袖を引っ張っると、「じゃあ、また」と行って去って行った。

 私もお兄ちゃん達がいるところまで戻ると、


「セリカちゃん、お腹大丈夫ぅ?」とお兄ちゃんが心配してくれた。


 気が付けばトイレに行ってから十分以上経っていた。

 誤解されたままでは何か嫌なので、私が今あったことを話す。


「しかしロリコンもあれだけど、ブラコンっていうのも、見てて何かあれだよねー」


 私がそう言うと、花咲がなぜか呆れたような諦めたような目で私を見るのだった。


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