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トリックオアトリート。

 シンデレラ城をバックに数枚ずつカタログ用の写真を撮り終えたところで、


「ちょっと写真お願いしていいですか?」


 と、女子大生っぽいお姉さんの二人組に声をかけられる。

 普通、こういうふうに声をかけられた場合、撮影する側に回るものだが、お兄ちゃんを連れている場合はこれが逆になる。

 つまり、「一緒に撮ってもらってもいいですか?」と。

 もうこうなってくると、ほぼランドのキャラクターの一員のようなものだったりするのだが実はこれもお姉ちゃんの目論み通りで、快く撮影を受けたあとにカメラを返すタイミングでうちの店のアドレスなどが載ったパンフをこっそりと渡すのだ。あくまでこっそり。


 それでもうっかりしていると行列ができてしまうので、その前にそそくさとその場を後にして、私たちはひとまずお城に向かって歩きだす。


「セイラはすごいなぁ! いつも今みたいな感じなのか?」


「は、花咲さんとセリカちゃんが一緒だったからだよぉ!」


「お兄ちゃん……そんな見え透いた謙遜は男子にしかウケないよ」


「うぅ……」


 一応私たちも一緒に写りはしたけど、それは宝石の横に並んでいたらガラス玉でもそれっぽく見えるようなものだ。

 お兄ちゃんを連れて、残念な容姿でプリンセスドレスセットを着ている子の横を通るときなんかは、何だか非常に悪いことをしている気持ちになったりする。

 そして自分にも最低限には母親の血が流れていてよかったと、ほっとする。 


「まあ、セイラと連れて歩くと一緒にいて気持ちがいい反面、イベントのある時期に連れてきてあげられないのは残念だよねー」


「そんなにですか?」


 お姉ちゃんのぼやきに、花咲が少し驚く。

 花咲はまだお兄ちゃんのすごさを甘く見ているところがあるな……。


「んー。やっぱ季節のイベントが始まると、その分お客さんの数も増えるからね。さっきみたいひと声かけられる分にはいいんだけど、もう人混みの間から盗撮レベルで撮られちゃうとさすがに姉としてはねぇ……」


「ごめんなさい……」


「セイラが謝ることじゃないでしょ?」


 お姉ちゃんにそう言われても、お兄ちゃんの眉はハの字のままだ。

 美しさは罪というけども、罰をこれほどまでに受ける罪を持つ男の子って……。

 かわいそうな反面、そういうお兄ちゃんがたまらなく愛おしく思うのも事実だったりする。 


「まあ、そういうわけだから今日みたいにハロウィンとクリスマスの間のノーイベントデーは本当助かるのよね」


「へえー」とお姉ちゃんの言葉に頷いた花咲が、「そういえば」と言う。


「ハロウィンってしたことないですねー」


「え、そうなの? ミチルちゃん家やらないの?」


「あのトリックオアトリートってやつですよね?」


「そうそう。お菓子あげるからイタズラさせてーってやつ」


 それじゃたたの変質者じゃないか。


「違うよぉお姉ちゃん、お菓子をくれないとイタズラするよだよぉ」


 ああ……。

 わざわざ姉の間違いを正すお兄ちゃんを見て、私は先日のハロウィンを思い出し、頬が緩む。


 全国的に雰囲気のみで馴染みの薄いハロウィンだけど、お母さんがイベント事が大好きだったので、姫宮家ではハロウィンは恒例の行事だったりする。


「トリックオアトリートぉ!」


 というお兄ちゃんに対して、


「いたずらしてくれたらお菓子あげる」


 と言ってお兄ちゃんを困らせるのも恒例。

 悪魔コスのお兄ちゃんが一生懸命頭を捻ったイタズラは、テレビのリモコンを隠すだの、「家の中で靴履いちゃうよぉ!(結局履かない)」だのその度に家族をほんわかした気持ちにさせてくれる。  


 今年のハロウィンでは少し趣向を凝らして、お姉ちゃんと私はお兄ちゃんの「トリックオアトリートぉ!」に手持ちのお菓子を全部差し出してみた。

 最初は例年と違う展開にきょとんとしていたもお兄ちゃんだったけど、すぐに「わーい」とばかりに喜んだ。

 しかしその横で私達がしょぼんとした態度でいると、「じゃあ、こんだけだけ返すよぉ……」と少しだけお菓子を返してくれた。

 そして今度はそれをお姉ちゃんと二人でもそもそをひもじそうに食べていると、お兄ちゃんが「もうちょっといるぅ?」と聞いてくるので、それももらう。

 これを更に続けると「もうイタズラしないからぁ! お菓子も全部返すからぁ!!」と悪魔が涙目で改心していくのを楽しんだ。


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