クマさんのパンツ。
ひとしきりはしゃいだ私たちはようやくエントランスを進み、
バザールを抜けるころにはそれぞれの頭にはキャラクターたちの耳が生えていた。
もう目に入るものすべてが欲しくなってしまう。
すっかり魔法中毒者だ。
花咲はカチューシャの上にさらにマウスくんの耳を、お姉ちゃんはマウスくんの彼女の耳、私はマウスくんのペットの犬のをつけている。
そしてお兄ちゃんには黄色いクマの耳がちょこんと生えている。
本当は私もそれがよかったんだけど、お兄ちゃんがつけたほうが爆裂かわいかったので笑顔で譲った。
黄色い色が金髪に違和感なく馴染み、本当に生えているいるように見えるのだからたまらない。
クマッ子がこんなにかわいいなんて、シートン動物記にだって載ってないよ。
私はもうこのクマの生態に興味津々。
さりげなく近付いて、その耳に触れてみる。
お兄ちゃんが「ふぁ?」とこちらを振り向くので、
「ふわふわだねーお兄ちゃん」
とよくわからないごまかし方をする。
それでも、
「ねぇー、ふわふわだねぇー」
と自分の耳をふにふにいじって笑顔で返してくれる。
純真。
無垢。
ああ、もっとこのクマッ子のことが知りたい。
知りたい知りたい尻たいっ!
もう今日のパンツは何色なんですか!?
クマさんはどんなおパンツはいてるんですか!?
私はお兄ちゃんのドレスのスカートがどうにかめくれないかと念を送るも、頬をなでる秋風は心地よいばかりで神風にはほど遠い。
そもそもちょっとやそっとの風では多少裾がたなびくくらいで、とてもじゃないがパンツが見えるまでには至らない。
私がそんな無念さに唇を噛みしめているそのときだった。
「あっ!」と、お兄ちゃんが何かを見つけて声をあげる。
その方向を見るとお兄ちゃんが大好きなガス風船が束ねてふわふわ浮いていた。
わーいとばかりに、たたっと二・三歩駆け出し、そして何もないところでいきなり蹴つまずくお兄ちゃん。
それを見て、はははっと笑いかけて私はすぐに「違う!」と心の中の自分を頬を張る。
お兄ちゃんのピンチはそれ即ちチャンスなのだ。
そしてチャンスの神様には前髪しかないという。
これは逃してはならない!
パンツのためなら神様のスカートだってめくってやる!!
前のめりに倒れそうになるお兄ちゃん。
それを花咲が抱えようとするも所詮は小五、勢いこそ殺せても抱えきるまでにはいかない。
一方お兄ちゃんはお兄ちゃんでドレスを汚すまいと地面に両手を突っ張り、ぴんと延ばした足とで懸命に踏ん張る。
形の悪い馬跳びのような姿勢だ。
そこで私は親切心から、
「お兄ちゃんスカートの裾がついちゃうよ」
と言ってスカートをまくり上げ、ついでに前に屈む。
……万歳三唱。
ピンク色の薄手のプリンセスパンツー!
抜かりないよお兄ちゃん!
大好きだよお兄ちゃん!
シンデレラだってこんなかわいいおパンツはいてないよ!!
夢も魔法もすべてここに詰まってた!!
そんなヒャッハーな気持ちは顔に出さず、お姉ちゃんの手によって抱き起こされたお兄ちゃんに私は心配そうな声をかける。
「大丈夫? ケガしてないお兄ちゃん?」
「大丈夫だよぉー。ありがとねセリカちゃん」
こちらこそ。
感動をありがとう。