第一章 出会い ~序章~
初めて小説を書いて投稿しました。不安定なところもあるとは思いますが読んでくれたらうれしいです。
長らくお待たせして、すみませんでした。勉強を言い訳に更新などしていませんでしたが再開したいと思います。
そこは、日本の某所にある田舎といった感じの風情ある町、両儀町。
町は自然に囲まれ、その恵みを受けて生活が成り立っている。上空から町を見下ろせば自然とその外側にビル群が立ち並ぶ。町の外周にきれいな円が見て取れて、二つの世界が隣り合ってるように見える。
町の四方には大小様々の山々や北の山から南へと流れる川があった。その南には川の近くにある観光の名所にもなる程の雄大できれいな湖が広がり。町の中央には大きい規模で、見た目は今どき珍しい木造様式ながらに立派な学校、両儀高等学校が堂々と建っているのだった。
カッ、ガッ。カッ! ヒュッ、カーン。
そんな町の未だ朝日の昇り切らない住宅地に、何か堅いものがぶつかり合う様な音が響いていた。
そこには武家屋敷があった。
一般住宅が三軒は入るのではないかというほどの長さの立派な塀で囲まれている。庭に咲いている満開の桜が舞い散り、見事な桜吹雪が目を引く日本屋敷だ。
音はその屋敷の離れにある小さい道場から聞こえて来るようだった。
そこには道着を着た少女と男が向かい合うように立っていた。
少女は汗で前髪を張り付かせて呼吸を荒くさせている。
それに対して男は何事もなかったかのように平然とした様子だ。引き締まった表情や少女のことを捉えて離さない視線からは、どこか威圧されるような空気さえ発しているように感じるのだった。
二人は2メートルはありそうな棒を持っている。堅い材質の特性を持つ樫の木から作られた棒だ。腰の所で構え、先端を相手に向けて対峙していた。
再び打ち合い始める二人。
カッ、カカカッ。ガッ、カーン。
男の打ち込んだ棒とそれを受ける少女の棒が交差してぶつかり合った。上下左右や時には正面から迫りくる攻撃。それをなんとか凌ぎ食らいつく。
が、それはすぐ男によってはじかれてしまう。
よろけそうになるのを耐えながら後ずさって、態勢を整え男に向かって構え直す。
男は少女の様子を観察するように見てからゆっくりと棒を下した。それと同時に今までの威圧感がまるで嘘だったかのように男は穏やかな表情と目付きをしていた。
「うん、守りの体捌きと棒の扱いが良くなってきたね。でも、相手への踏み込みがまだ甘い。恐がっていては簡単に往なされて逆に大きい隙を相手に与えてしまう」
「はぁ、はぁっ。はいっ」
少女は肩を上下させて、自らの動きに対する指摘に返事をした。息を整えるために棒を持ったままの手を膝に置いて前かがみで休みながら、目だけは男の方に向けていた。
こんなに苦しいのに、全然疲れてないんだ。
「今日の鍛錬はここまでにしようか。紫恩」
「はい、ご指導ありがとうございました。お父さん」
少女を紫恩と呼んだ男、桜井剛志は刈り揃えられた坊主頭をしており。その見た目からは三十歳とは思えない若さと、落ち着いた大人の渋さが感じられる。
「もうこんな時間か。紫恩、風邪を引いてしまわないうちに鍛錬でかいた汗を流してくるといい」
道場にある時計を見れば、短針は六を指していた。
「うん、そうする。着替えてすぐにご飯作るね」
紫恩は一人で包丁や火を扱っても大丈夫になったころから剛志の横で料理してきた。今ではこの家の台所を任されていた。
こんな風に気軽に会話をしている二人は本当に仲の良さそうな父と娘といった所だ。
紫恩は鍛錬で使った棒を片付け、道場の入り口から外に出る。一歩出た所で振り返り道場と父親に一礼をして、その場を後にした。
剛志は道場の床を水拭きしながら紫恩のことを考えていた。
中学を卒業したとはいえ、華奢さの残る小さな身体。ここ最近から鍛錬を始めたにもかかわらずしっかりと着いてきている。塞ぎ込んだ様子をたびたび見かけるようになって棒術の鍛錬に誘ったが、最初は棒を振るのにも苦労していたのを知っているだけに顔が綻ぶ。
そこで、ふと先日の夕食時に掛かってきた両儀町から離れた所で暮らしをしている姉からの電話の内容を思い出したのだった。
『もしもし、剛志。私よ、紫恩ちゃん元気にしてる。―――そう、なら良かったわ。あ、それで息子がそっちの高校に決まって通いに行くんだけど、卒業するまで下宿させてやってくれる。―――ありがとう。そう言ってくれると思って、荷物はもう送っといたから。明日にはそっちに届くと思うわ。明日のうちに顔出すと思うから。息子をよろしく。じゃあね』
男手一つで紫恩の子育てをしていた時、姉だけが背中を押してくれた。そのうえ、子育てを教えてもらった剛志にとっては頭の上がらない相手だった。
その姉からの電話は一方的だったのだが、甥が来ることに了解して、紫恩にもその旨をその場で伝えていた。
掃除する手を一旦止めて時計に目を向ける。
「そういえば。早ければもう、来る頃だけど。今、どの辺りまで来ているんだろうか?」