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少年のこころ

メデル渓谷。

かつて邪神を封じたといわれるこの土地は、魔法が使えない。生物が生まれない。

その名を死の谷という。

そんな谷でも、人間は生きていく。

難民や流罪になった犯罪者、敗戦国の脱走兵など。様々な理由で国を無くした人間が集まり出来た町。

『クィレル』

三人の少年少女は狭い青空に手を伸ばしていた。


「ほんとに行っちゃうの?」

一番小さな少年が、最年長の少女にそう尋ねた。少女は笑って少年を撫でた。

「ごめんね。でも、もう仕方無い事だから。」

明日、少女は町を出る。人買いに買われたのだ。

この町で弱い人間に生きていく術は与えられない。

少女は自分で自分を売った。

「ひっ…うぐ……うぇえぇぇぇえん…」

少女の言葉を聞いて泣き出した少年を少女は優しくあやした。

今まで黙って見ていた少年が大きく溜息を吐いた。

「お前もわざわざ我慢する必要は無いだろうに。泣きたいなら泣けよ。」

「駄目よ。私は『おねえさん』なんだから。」

「なんだよ、それ。」

唇を噛んで少年は腰に手をやった。そこには少女から渡された皮袋がある。

「こんな物押しつけてどっか行くのがおねえさんのやることかよ!」

悔しさで声が震えていた。

「俺は嫌だぞ!絶対に!認めない!」

震える声をごまかすように怒鳴って、少年は座り込んだ。

拳を硬い地面に打ち付ける。

痛くて涙が出てきた。


「なぁ。カナル。」

「なに?」

「こんな町、俺が壊してやる。」

弱者が強者に喰い殺されるだけの、薄汚れた町。

カナルは、少年の言葉に曖昧に笑って答えた。

「う…ぼ、僕も手伝うぅ…」

「ケイン…」

泣いていたケインもそう言ってカナルの服の裾を強く握った。

「そうすれば、お姉ちゃんも帰ってきてくれるよね?」

必死で涙を堪えるケインをカナルは愛おしげに撫でた。

少年はその2人を見て心に誓う。


必ず俺がこの町を変えてやる。




それは今から30年近く昔の話であった。


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