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9.天涯城と地涯城


――天涯城(てんがいじょう)



「・・・(れん)陛下」


「ああ・・・沙綺(さあや)か」


 名を呼ばれて強張った表情で振り返った天涯王・煉は、その相手が王妃・沙綺であったことを知るとホッとした様子で目元を緩めた。


「陛下、最近はあまり眠れていらっしゃらないようですが・・・お身体は大丈夫ですか?」


「大丈夫と言いたいところなのだがな・・・」


「・・・あの子のことが心配なのですね」


 沙綺が視線を落とす。


 心配しているのは自分だけではないと今更ながらに気づいた煉は、沙綺を気遣うようにその背に手を当てた。


「そなたにとっても大事な息子だな・・・まさか、あれを逃がすときにはこんなに長引くとは思ってもいなかった」


「5年です・・・柚緋(ゆうひ)をあの方に預けて・・・無事に暮らしていると報告を受けても、やはり心配です」


 直接会うことが叶わないからこそ、余計に不安はつのる。


「・・・元老院さえなんとかできれば。すまない、私が無力なばかりに」


「いいえ・・・無力なのはわたくしも同じです」


 “鍵”の王子の誕生に城中が歓喜した、その裏で恐ろしい計画が動き出していたことを知ったのは王子・柚緋が17のとき。


 元老院の実質のトップである王弟・(ごう)が秘かに柚緋を手懐けて、意のままに操ろうとしていると密告があったのがきっかけだった。


 実弟である豪がまさかそんなことを、と半信半疑で調査を命じた煉の元に届いた報告は、豪の計画の一端を示すものだった。


「“錠”のありかを豪が調べ上げていたとは・・・」


「・・・豪様の望みは・・・世界を統べること、なのでしょうか?」


「“鍵”と“錠”を手に入れることができれば、そうすることは可能だな。魔力に頼って生きているこの世界で、その根源を手に入れた者に逆らうことなどできはしない」


「・・・魔力の占有・・・決して許されるものではありませんわ」


「だが・・・“鍵”が“錠”を開き、魔力の根源である“彼女”を手に入れられてしまえば・・・」


 魔力の根源は人型、それも女性の姿をしている。


 それは神話の中で語られているものだが、何百年か前に“鍵”が“錠”を開けたときの状況が記された本にも同様に女性の姿をしていたと書かれている。


 “彼女”は意思を持っているが“鍵”の言葉には逆らえない。だからこそ“鍵”の御印を持つ者の教育には細心の注意が払われる。


「柚緋が豪様に懐いていることに、疑問を持つことなど不可能でした」


「・・・あまりにも自然に豪は柚緋を懐かせていたからな」


 目的の為に努力を惜しまなかった豪に、煉は“鍵”と“錠”への、そして“彼女”への執念を感じた。


「陛下・・・」


「大丈夫だ。柚緋のことは地皇にも頼んでおいたし、魔導協会も最大限協力してくれている」


「そうですね・・・お兄様と磨大(まひろ)が、柚緋を護ってくれますよね?」


 沙綺の兄である前地皇・結磨(ゆうま)とその息子である現地皇・磨大。その2人が全力で柚緋の存在を天涯国の元老院から隠している。それは煉と沙綺にとって最後の頼みの綱だった。


 いくら元老院といえども、地涯国ではそうそう自由には動けない。しかも前地皇と現地皇が目を光らせているのだから、尚更だ。


 更には魔導協会も“鍵”の王子のことには神経を尖らせている。


「後は元老院をなんとかするだけ・・・元老院さえ黙らせることができれば、豪を抑えることも可能なのだが」


 それが簡単にできることではないからこそ、煉は苦しんでいる。


 それを知っている沙綺もまた、己の無力を嘆いた。



***



――地涯城(ちがいじょう)



高雅(こうが)、体調はどうだ?」


「・・・大丈夫です、磨大(まひろ)陛下」


 大規模な術を行使し、維持し続けている高雅。その身体は動かすことすらままならない状態になっていた。


 地涯城の一室で安静にしている彼女を見舞った現地皇・磨大は嘆息する。


「“鍵”を護るためとはいえ、たった1人で盟の町全体に術をかけるとはな・・・高雅、そなたでなければ死んでいたぞ」


「・・・フフ、できると思ったからこそ実行したのですよ。それに、魔導協会は娘の由里亜が会長を継いでくれましたし」


「由里亜にはまだ荷が重いだろうに・・・まぁ、火印もついているし大丈夫だとは思うが」


「そうですね、火印はとても優秀ですから」


 頷いた高雅は、少し苦しそうに胸を抑える。


「・・・大丈夫か?」


「ええ、さすがに5年も維持し続けているのは、キツイですね・・・柚緋(ゆうひ)王子は“鍵”ですから抗魔力(こうまりょく)(魔術にかかりにくい力)は尋常ではありませんし」


 本来であれば“鍵”に魔術を行使して操ることは不可能なのだが、それは“錠”を開けるように強要することを念頭に置いたもの。


 その抜け道を知っていた高雅は“鍵”である柚緋に魔術を行使することができたというわけだ。


「柚緋に自覚させる時間がなかったとはいえ・・・高雅には負担をかけているな」


「いいえ“鍵”に関しては魔導協会も管理する側ですし、私は柚緋王子の師でもありますから」


「・・・近いうちに柚緋を地涯城にあげる。護るだけでは何の進展もないからな」


「・・・そうですか」


 反対されると思っていた磨大は、首を傾げる。


「いいのか?」


「・・・どうぞ、御随意に」


 高雅は笑みをうかべ、(こうべ)()れた。


2012/10/29 改編

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