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5.流佳の相談所


 結局のところ、勇砂の仕事場の半分を借りて始めた流佳の相談所は大繁盛となった。


「流佳先生、あたしゃ最近、本当についてなくてねェ・・・」


 近所に住む女性の相談は、何をやってもうまくいかないからなんとかしたいというもの。


「運っていうのは自分で引き寄せるものですよ。自分には運があるって思い込んでみてください。・・・あぁ、そうそう。今度、隣の(うら)の町に行ってみてください。いいことがあるかもしれませんよ?」


「ああ、そうしますよ!ありがとう、流佳先生」


 流佳の諭告(ゆこく)のほとんどは幸運を呼ぶもの。だが、たまにそれでは救えない相談者もやって来る。


「・・・最近、どうも疲れやすくて。・・・今度、貴族街で屋敷の修復を任されたんだが、この調子だからねェ、悩んでるんだよ」


 壮年の男性で仕事柄健康的に焼けてはいるが、目は落ちくぼみ隈も濃く、何よりも表情が全体的に暗い。


「(これは死相だわ)・・・しっかりと休みをとってますか?」


「あ~、いや・・・ほとんど休めてないかもしれないなァ・・・」


 男性はそう言って苦笑いをうかべるが、どう見てもずっと眠れないでいるのがわかる。


「仕事は断った方が良いですね。それと・・・勇砂!」


 流佳はハッキリとそう言って、勇砂を呼んだ。


「―――薬湯(やくとう)だな」


 呼ばれた勇砂は相談者の顔を見た瞬間にそう呟いて、調合室に引っ込む。


 しばらくして出てきた勇砂の差し出した薬湯を男性に渡し、流佳は微笑む。


「さぁ、これを飲んでください。疲れが取れますよ」


 天涯草を煎じたその薬湯を一気に飲み干した男性は、流佳の表情を伺う。


「な、なんか悪いモンでも視えたのかい、流佳先生」


「いいえ、かなり疲れているようなので、お仕事もしばらく休んだ方が良いと思うんです。お仕事のことを考えて眠れないこともあるんじゃありませんか?」


「ああ、良くわかったねェ・・・どうも、疲れがとれないもんだから、自信まで無くなってしまって・・・次の日の仕事のことで頭がいっぱいになっちまって眠れないことも多いんだ・・・」


 男性が本音をもらすと、流佳はやんわりとした口調で断定的に言った。


「そういうときは、仕事の大きさに関係なく失敗してしまうことも多いですよ。ここはキッチリとお休みして、元気になってからお仕事を再開させた方が良いです」


「それから、明日また来てください。薬湯を煎じますから。・・・何事も身体が資本ですよ」


 ダメ押しのように勇砂が言うと、男性はどこかホッとしたように頷いた。


「そうだねェ、流佳先生だけじゃなくて勇砂先生までそう言うってコトは、俺ァ相当疲れてるんだろうねェ・・・わかったよ、仕事は断る。・・・じゃあ、明日もまた来るから」


 出て行く男性を見送って、流佳は大きな溜息をもらした。


「勇砂が言ってくれなかったら、まだ悩んでたかもしれないわね、あの人」


「いや・・・たぶん、自分でも仕事を断りたいって思ってたんだろ。ダメ押しが欲しかったんだよ」


 信頼度の差なのだと言わんばかりの流佳をなだめるように勇砂は言って、笑みをうかべる。


「そうかなぁ・・・」


「そうだよ。・・・流佳は皆の役に立ってるさ」


「そう?・・・勇砂にそう言ってもらえると、安心するなぁ」


 表情を緩めた流佳の頭をポンポンと軽く叩き、勇砂は男性が飲んだ薬湯が入っていた器を持って、調合室へと戻っていった。


 勇砂が調合室へ入ってしまうと、流佳の顔から表情がストン、と抜け落ちる。


「・・・勇砂の背後に視える黒い影・・・アレは悪意・・・高雅(こうが)の“術”がよく利いているから、まだ影響はないけれど・・・」


 勇砂の周りに張りめぐらされた護りの術に彼女の深い愛情を感じて、流佳はそっと目を閉じた。


2012/10/29 改編

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