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3.彼女の思惑と交渉


 コトコトと何かを煮ている音と、美味しそうな匂い。それに混ざって独特の薬の匂いがする。


 覚醒しかけの頭の中でここはどこだろうと考える。そして、自分のことを思い出そうとして―――彼女はガバリと跳ね起きた。


「・・・起きたか?」


 声をかけてきたのは見知らぬ少年。


「・・・あなた、誰?」


「あー、えーと・・・俺は勇砂。一応、こう見えても魔導師だ」


「・・・そんなに、若いのに」


「少なくともお前よりかは上だと思うぞ・・・俺は今年で23だ」


「――――――えっと、新手の詐欺?」


「・・・命の恩人に向かって詐欺はないだろ」


 ガックリと肩を落とした彼の言葉に彼女は首を傾げ、途端、自分の状況を思い出した。


「・・・ここはどこ?」


「地涯国・盟の町・・・の倉庫街にある俺の自宅」


「えっと、勇砂、の自宅?」


「そう。お前は“死人の森”で倒れてて、たまたま俺が薬草を採りに行って見つけて拾ったわけだ」


「本当に、命の恩人だね。死霊術師がうようよいるあんなところにいたら実験台にされちゃう・・・助けてくれてありがとう。私は流佳(るか)・・・そう・・・占星術師(せんせいじゅつし)よ」


 彼女は自分がおかれていた状況に困ったように笑うと、そう自己紹介した。


「占星術師か・・・貴重だな。天性の才能が無い奴はいくら努力しても身に付けられない技術があるって聞いたことがあるぞ」


「・・・魔導師だって、そうそう簡単にはなれないと思う」


 クスクスと笑いながら言う流佳を見て、勇砂は小さく息を吐いた。


「・・・あんなとこに倒れてたんだから事情があるのは察してる。無理矢理聞き出そうとは思ってないから・・・まずは、食事でもどうだ?」


 彼なりの気遣いなのだろうと流佳は思い至り、ニコリと笑って頷いた。


 出てきた食事は、器に盛られたシチューとパンの籠。先程の良い匂いはコレかと流佳が納得していると、勇砂は照れたように頭を掻いた。


「シチューは貰いものなんだ。俺、家事はまるっきりダメで・・・」


「―――じゃあ、助けてもらったお礼に、私があなたの身の回りのお世話をしてあげる」


「え!?・・・い、いいのか?っていうか・・・その・・・男1人の家に女の子が転がり込むのは・・・」


 勇砂が何とも言えないような表情をうかべると、流佳は首を傾げた。


「あなたは信用できる人だと思ってるんだけど・・・違うの?」


「いや・・・その・・・万が一ってコトも・・・」


 ごにょごにょと呟くように言う勇砂だが、ハッキリと嫌だとは言わない。


「嫌じゃないならココに置いて。私、役に立つわ・・・それに、魔導師の傍にいれば安全でしょう?」


 流佳の思惑(おもわく)(から)んでいるのだと暗に含ませて言えば、勇砂は仕方ないと言わんばかりに苦笑した。


「わかったよ。・・・実際、結構困ってたんだ」


「交渉成立!・・・これからよろしくね、勇砂」


「・・・その前にハッキリさせておきたいことがある」


 突然真顔になった勇砂に、いそいそとシチューを口に運んでいた流佳はスプーンを(くわ)えたまま首を傾げた。


「・・・お前、いくつだ?」


「ん・・・18、だけど」


「・・・なら、よし」


 未成年略取誘拐みせいねんりゃくしゅゆうかいにはならずに済みそうだと勇砂は胸を撫で下ろす。


 この国の成人は男女ともに18歳。18歳の少女が家を出て他人の家に転がり込んでも、法的には何の問題もないはずだった。


「・・・ああ、結構細かい人だったんだ」


 流佳が困ったように笑えば、勇砂は頷いた。


「犯罪を犯せば、免許剥奪だからな」


「・・・そっか。魔導師って結構厳しんだっけ?」


「ああ・・・まぁ、お前の気の済むまで居て良いが、居なくなるときは言ってくれよ」


「うん、わかってる」


 こうして、勇砂と流佳は共に暮らすことになった。


 この出会いが必然であったことを知らずに。


2012/10/29 改編

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