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23.結婚式と王の誕生


――二年後



 天涯国に新たな王が立つ。白亜の城に祝いの品が次々と届き、侍従(じじゅう)たちが慌しく城内を駆けずり回っていた。


 王族のみが入ることを許される内殿(ないでん)の自室にも外の喧騒が聞こえてきて、思わず柚緋(ゆうひ)は苦笑をもらす。


 と、その時。自室のドアがノックされる。


「どうぞ」


 許可を出すとドアが開かれ、両親が入ってきた。


「柚緋、いよいよお披露目だな―――その王のマント、良く似合っているぞ」


 満足げに頷きながらそう言ったのは天涯国の前王・(れん)


「本当に、立派よ。柚緋」


 涙ぐんで微笑み、息子の姿を見つめる前王妃・沙綺(さあや)


「父上、母上・・・今までご迷惑をおかけした分、ゆっくりと休まれてくださいね」


「ああ、遠慮なく隠居させてもらう。お前に教えることももう無いしな。それに―――」


 柚緋の言葉に頷いて、煉はにやりと笑う。嫌な予感がして、柚緋はわずかに身構える。


「新婚の邪魔もするものではないだろう?」


「ッ!」


 おそらく今鏡を見れば、耳まで赤くなっていることだろう。


 すっかりからかいのネタにされてしまったプロポーズの言葉。今更ながら、二年前になぜあんな衆人環視の中で口にしたのかと、自分の迂闊さに腹が立つところだ。


「あらあら、柚緋ったらお顔が真っ赤よ?」


 クスクスと笑って指摘する沙綺に、体中が火照ってくるのを感じる。


「母上まで、からかわないでください・・・!」


 一応の反抗を試みるが、真っ赤な顔で言ったところで効果などあったものではない。


「まぁ、極限まで追い詰められた後だったし、滅多に会えない相手ともなれば、チャンスを逃さずにプロポーズをしたのは大手柄だったと思うがな」


 煉としても、柚緋が選んだ相手が月影の告知姫であったことに驚きはしたが、後ろ盾もしっかりしており、立場としても上々の相手であるから手間が省けたといえる。


 国内で選べば、どうしても王妃の実家に権力が集中しがちになる。それはあまり良いことではないため、柚緋が生まれた時点からそのことについては頭を悩ませていたのだ。


「それで、流佳(るか)さんはどちらに?」


 沙綺が首を傾げる。これだけ大きな息子がいるとは思えないくらいに少女めいた仕草。それがまた非常に良く似合うのだ。


「侍女達に連れて行かれましたよ。花嫁は本番まで花婿には会わせない、だそうで」


 そう。今日は柚緋の戴冠だけでなく、結婚式も行われることになっている。


 せっかく誰よりも早く流佳のウエディングドレス姿を見ようと思っていたのに、思わぬ邪魔が入った。そう心の中でぼやく。


「まぁ。・・・じゃあ、お式まで会えないのねぇ。でも、お式で会うその瞬間までドキドキできるって素敵じゃない?」


 頬を紅潮させて声を弾ませる沙綺に、柚緋は苦笑する。


「そういえば、花嫁のエスコート役は誰が?」


 同じく苦笑していた煉が柚緋に顔を向けて尋ねる。


火印(かいん)くんだそうですよ」


「ああ、彼か。先だって魔導協会の会長になったらしいな」


 前会長由里亜(ゆりあ)は火印の熱烈なラブコールに陥落して火印の妻に落ち着き、魔導協会の執行部から身を引いた。その後を継いだのが夫であり、会長補佐であった火印だ。


「火印くんは優秀ですからね。今まで以上に魔導協会ともいい関係が築けそうです」


「そうか・・・これからが楽しみだな」


 天涯と地涯と魔導協会が協力関係にあれば、これから先あのような悲劇が起こらないよう、未然に防げる可能性が高くなる。


 権力の餌食となってしまった豪を思い出し、煉はわずかに表情を曇らせる。


 その時、まるでタイミングを計ったかのようにドアがノックされる。


「―――陛下、お時間です」


 侍従長の声だ。


 まもなく結婚式が挙行される。その後柚緋の戴冠式があり、正式に王位を継ぐ。


「今、行く」


 王のマントを翻し、部屋の外へと向かう。


「やれやれ、花婿は一刻も早く花嫁の姿を見たいらしい」


「父上!!」


 またもからかうような口調になった煉を真っ赤な顔で諌め、柚緋は侍従長の案内に従って式場に向かった。



***



 花嫁のヴェールは花嫁自身が刺繍を施す。それが天涯国の伝統だ。流佳が懸命に刺繍をしていたのを見て、柚緋は心が温かくなるのを感じた。


 火印にエスコートされてヴァージンロードをしずしずと歩く花嫁・流佳。見事なレースで縁取られたヴェールに隠された表情を早く見たいと思うのは柚緋だけではないと思う。


 やがて柚緋の前に到着して、火印から柚緋へと流佳の手が渡される。


「流佳」


 手順なんかすっ飛ばしてヴェールを取りたくなったが、柚緋はそれを何とか理性で押しとどめた。


 グッっと流佳の華奢な手を握り込む。


「・・・ふふ」


 月影の告知姫としての力と“錠”としての力を失っても、柚緋との繋がりだけは消えなかった流佳。どうやら自分の考えは駄々漏れだったらしい。


 小さく笑った己の花嫁から気まずげに視線をそらし、柚緋は前へと向き直る。目の前には二人の結婚の証人者としての役目を負った煉がいる。


 花婿と花嫁がそれぞれに宣誓書を読み上げ、証人者として煉がサインをする。


 二人は向かい合い、柚緋は流佳のヴェールをそっと持ち上げる。


「流佳・・・綺麗だ」


「ありがとうございます」


 柚緋はほんのりと頬を紅く染める流佳の両肩に手を置き、誓いのキスを流佳の唇に落とす。


「柚緋様万歳!!」


「流佳様万歳!!」


 列席した貴族達から声があがり、式場に割れんばかりの拍手が起こる。


 一組の夫婦が誕生し、そしてその夫婦が新たな国を作っていく王と王妃になることを祝福する拍手だった。


「幸せにするから」


 ぽそり、と柚緋が流佳に耳打ちする。


「私も・・・精一杯、貴方を支えます」


 答える流佳の目尻に涙が光る。






 天涯国に祝福の鐘が鳴り響いた。




                                       FIN

長らくお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

ひとまずはここで本編を完結とさせていただきます。


番外編は思い立ったら書く・・・という感じで。

もし、あの人はどうなった?とかあの件の補足は!?とか、ご要望があれば優先的に書こうかと思います。


ご要望が特に無ければ、書きたかったけど本編にはそぐわないからと泣く泣く削った部分をちょこっと書こうかと思います。


終盤になって、ユニークアクセス数が伸びていて、その数に慄きました。(私的にはありえない数なので)

お気に入り登録をしてくださった皆様も、本当にありがとうございました。


本当に本当に、ありがとうございました!!

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