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22.追放と帰還

「―――余計な真似を」


 憎まれ口を叩く(ごう)に、柚緋(ゆうひ)は泣き笑いをうかべる。


「私は叔父上が大好きでした」


「・・・私は、お前が嫌いだ。何も知らず私に懐いて。―――もう二度と、騙されることのないように振る舞え。お前は“鍵の王子”なのだから」


 それが、叔父・豪からの最後の教えとなるだろう。柚緋は静かに頷く。


 流佳(るか)の額の魔法陣から光が消えると、“光の道”がその場に現れた。


「転移させます。中に入ってください」


「ああ」


 流佳が促すままに豪は“光の道”の中に足を踏み入れる。


「・・・豪」


「私は貴方も嫌いでした。兄上」


 何事かを口にしようとした(れん)の言葉を封じ、豪は嘲笑する。


「こうなる前に、もっと話せばよかったな・・・」


 煉の後悔の言葉に、豪は鼻を鳴らした。


「フン・・・いくら話したところで、貴方に持たざる者の気持ちはわからない」


 真っ向から睨み据えてそう言い放ち、豪は流佳に視線を向ける。


「月影の告知姫、早く転移させろ」


 別れを惜しまれるのが煩わしいと言わんばかりの態度で口調を荒げる豪に、流佳は静かな視線を向ける。


「転移―――外周世界へ」


 “光の道”が一際輝き、あまりの眩しさに皆が目を閉じる。


 次に見た時には“光の道”は豪ごと消え去っていた。





「―――姫」


「外周世界のどこに飛ばされたか、私にもわかりません」


 高雅(こうが)の問いを予想していたのか、流佳はそう言って首を振る。


「月影の告知姫、我が国のことに手を煩わせてしまい、申し訳ない」


 煉が謝罪の言葉を口にする。それに対して流佳は苦笑をうかべた。


「“鍵の王子”のこととなれば、魔導協会の管轄にもなります。―――まぁ、力を悪用して世界征服、なんてことにならずに済んで良かったですわ」


「そう言えば、父上はいつこちらに?」


 柚緋が首を傾げつつ訊くと、煉は由里亜(ゆりあ)の方へ視線を向けた。


「ああ、沙綺に元老達のことを任せた後こちらに転移する準備をしていたら、魔導協会から由里亜(彼女)が迎えに来てな」


「では、由里亜と一緒に来たのですか」


「そうだ。一緒に顔を出せば、豪を刺激しかねないということで少し距離を置いた場所で待機していた。―――5年、随分と手間取ってしまったが・・・ようやく国内が落ち着く」


 絶対王政だったはずなのに元老院と二分してしまった権力が再び王の元に集約する。(いびつ)にねじれた組織が正常に戻ったのだ。


 ほぅ、と煉が安堵の溜息をもらす。その仕草に今までの苦労を思わせる。


「というコトは、“勇砂先生”は天涯に帰っちゃうんですねぇ」


 柚緋の偽りの人格の名を口にしたのは火印(かいん)だ。


 時間稼ぎとはいえ、年若い彼が途中まで豪と互角に渡り合ったのを目にした事は、柚緋にとってはいい勉強になった。


「火印くんが望めば、会いに行く。君は魔導協会のNO.3なんだろう?天涯国の王子と交流があっても何ら問題は無い。―――それに、盟の町の人達にも一度礼を言いに行かないとな」


「逆ですよ~。彼等は柚緋殿下に助けてもらったお礼をしたかっただけですから、お礼は受け取ってもらえませんよ?」


 そう言って火印が苦笑をうかべる。


 盟の町の住人は無理矢理ではなく、自ら望んで柚緋を助けた。それに対して迷惑をかけたなどと言った日には火印が怒られる。なんでちゃんと自分達の感謝を伝えてくれなかったのか、と。


「・・・私は“鍵”の力をむやみに使って、偽善(ぎぜん)的な行動をとっただけだ」


 死んだ者は生き返らない。それでも病をどうにかして収束させたかった。


 生き残った者達に感謝されても、後味の悪さが柚緋の中には残っていた。


「偽善でもなんでも、人命は救われた。それが事実です」


 にこにこと笑う火印にそう(さと)されて、柚緋は苦笑をうかべた。


「そうか・・・そう言ってもらえるなら、良かった」


「その点については地皇として感謝しなくてはならないな。柚緋が手を貸してくれなかったら、私が準備を整えるまでにもっと多くの犠牲者を出していただろう」


 磨大(まひろ)が真剣な表情をうかべて柚緋に頭を下げる。


「頭をあげてくれ、磨大は王だろう?・・・それに、魔導師は貴族付きが多いからな。共々に町から逃げられてしまっては手も打てないだろう。―――ともかく、町の医療機関をちゃんと配備すべきだと思うぞ」


「ああ、今、死霊術師達に特効薬を研究させている。・・・遺体を扱えるのはあやつ等だけだからな」


 死霊術師達がなぜ国のお抱えになったのか、意外な事実を知って柚緋は目を丸くした。


 そして付随して思い出した事柄を口にする。


「・・・国で管理してるなら、死の森をもう少し小奇麗にできないか?」


「いや・・・手入れはしているんだがな・・・どうも“光の道”の出現ポイントなせいか、植物の成長が著しく早いんだ」


「そうだったのか・・・知らなかった」


「“光の道”は様々憶説がありますが、魔力の根源の一部ではないかと言われています。メインは移動のために用いている魔力ですが、副産物として再生の力をその場に放出しているのではないかという研究結果が出ています」


 由里亜が説明を口にすれば、煉がほう、と感嘆の声をあげた。


「それで、王城にある転移の間で休むと魔力の回復が早いのだな」


 王城に勤める術師の間では有名な話だ。だから、転移の間の近くに術師達の簡易宿舎があるのだ。


 天涯王と地皇と月影の告知姫が揃う機会など滅多にないことだからか、そのまま外交の話題に移り変わっていく。


「・・・父上、外交も良いですが、そろそろ帰りましょう。―――母上が心配だ」


「あ、ああ・・・そうだったな。地皇、今後のことはまた後日詳しく話し合おう」


「ええ、そうですね、煉王(叔父上)。叔母上にもよろしくお伝えください」


「ああ、わかった。・・・柚緋のことは世話になったな」


「いえ、柚緋は私にとっても大切な従弟ですから」


 ガッチリと握手を交わす二人の王。それを見届け、流佳は二人の間に立つ。


「―――では、私がお送りしますわ」


「頼む・・・柚緋、こちらへ」


 煉が頷き、柚緋を側に呼び寄せる。


 これでしばらくは流佳と会う機会は無くなる。月影の告知姫が易々と塔の外に出ることは許されていない。今回の件は例外中の例外だったのだろう。


 それでも、“鍵”と“錠”は繋がりあっている。そう信じて、柚緋は今一番彼女に言いたいことを口にした。


「・・・二年後、迎えに行く」


 妃として。


 言わなくても通じたのだろう。流佳は嬉しそうに微笑み、頷いた。


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