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18.それぞれの作戦


――天涯城


「殿下、“光の道”開通しました。いつでも転移可能です」


 数名の術師の総魔力を使って作り上げた地涯城に直通の“光の道”の完成の報告を受けて、(ごう)は厳しい表情をわずかに(ゆる)めた。


 “光の道”を作り上げた術師達はぐったりとその場に座り込んでいる。彼等の魔力は完全に空っぽの状態だろうから、転移にはまた別の術師を使う。


 “光の道”を人工的に作り出すことが可能なことには“鍵”を調べるにあたり副産物的に知った。何度かの実験を経て、満月時に現れる“光の道”の出入り口であれば繋げることが可能となった。


 柚緋が使ったという出入り口でもない場所からの転移は、“鍵”としての力があってのことだろうと結論付けてまねをすることは諦め、王と王妃を元老達に足止めさせて転移の間を使うことにした。


「・・・よし、兄上達の方はどうだ?」


「は。陛下も妃殿下も陽動(ようどう)役の元老方の相手をされており、こちらの動きにはお気付きではないと思われます」


「決行するならば今か。―――転移の準備をせよ」


 その命に従い、転移担当の術師達は“光の道”の陣に魔力を注ぎ込む。豪は陣の中に術師と元老院付きの兵士数名を伴って入った。


「―――転移、開始します」


 陣に充分に魔力が注ぎ込まれ、転移の間は光に包まれた。






――天涯城


 応接間で作戦の確認をしていた柚緋(ゆうひ)達の元に伝令兵が転がり込むようにやってくる。


「ご報告申し上げますっ!!て、転移の間に“光の道”の陣が出現しました!!」


「―――来たか」


 磨大(まひろ)が表情を硬くして呟く。


「陛下、先程説明した通りにお願いいたします」


 流佳(るか)が確認するように言えば、磨大はしっかりと頷く。


「ああ、任せておけ。・・・柚緋、お前は大丈夫か?」


「大丈夫だ。もう、覚悟はできている」


 肉親を断罪することになるのは柚緋だけではない、磨大にとっても豪は叔父にあたる。柚緋だけがためらうわけにはいかない。


「客人は謁見の間に通せ。抵抗はするな」


「は!」


 伝令兵は磨大の命を(たずさ)え、再び転移の間に戻っていく。それを見送り、磨大は柚緋達を振り返った。


「謁見の間で出迎えてやろう。その方がハッタリもきくだろうしな」


「そうですね、磨大陛下が玉座から見下ろすだけでもプレッシャーを与えられるでしょう。天涯国の元老院といえど地皇とは同列ではありませんから」


 流佳が同意すると、磨大はにやりと笑った。


「月影の告知姫、そなたがいるだけでも充分とは思うがな」


「ここは地涯城ですわ。月影の告知姫よりも地皇の方が発言力はあります」


 月影の告知姫を含め魔導協会は中立を貫く。この場合は磨大が主となってやり取りをすることになるだろう。そう言う流佳に、磨大は苦笑して頷く。


「それはそうだが、こちら側に月影の告知姫がいるというだけでも違うのだ。そなたが先程言ったように“最強の占星術師”というだけではない。その“予言の正確さ”に対する信頼度がものをいう」


「姫は月影の告知姫という立場の本当の意味―“錠”ということ―をご存知だからこそ、他からの見え方がわかっていらっしゃらないのでしょう。予言が100%的中するということは、この世界を動かしているのと同義なのですよ」


 高雅(こうが)が磨大の言葉を補足する。


「・・・月影の告知姫というのはそう思われているのね」


 流佳はそう呟いて目を伏せる。月影の告知姫は支配者ではない。が、支配者と同義と思われているのは確かなのだ。それが、彼女にとって本意でなくとも。


「“鍵”とは別の意味で、権力者が欲しがるモノなんだろうな」


 そんな流佳を見つめながら柚緋が苦笑する。“鍵の王子”であるからこそ、流佳の気持ちも良くわかるのだ。


「この力を得たのは不可抗力だ、などと言ったら傲慢(ごうまん)(ののし)られるのでしょうね」


「そうだな。私達は他人が欲する力を得てしまった。望む望まないは関係なく。それを嘆くのは力を持たない者から見れば、傲慢なのかもしれないな」


 力があればできることがある。己の無力を嘆く者がいたならば、柚緋達が普通でありたいと望むことは傲慢としか思えないだろう。


「―――でも、そうであるならば、ますます私の考えた作戦は効力を増すということですね」


 この世界の支配者と思われている月影の告知姫の権限を使うのであれば、流佳が思っている以上の効果があって当然。


「そういうことだな。そなたと柚緋がこちら側にいると見せつければ、叔父上以外の者を怯えさせることも可能だろうし、中立の立場を持つ魔導協会による裁判へと持ち込むことも可能であろうな」


 月影の告知姫の権限。それは両国間同士ではどうにもならない外交問題に発展した際に発動する、中立の立場からの裁判権の主張だった。


 この場合、流佳が最初から地皇側についていたと思わせてはならない。磨大が流佳を招致(しょうち)したようにするのだ。


「そろそろ転移も完了し、こちらへと来る頃だろう。・・・うまく、話をあわせてくれ」


 磨大は近くにはべる高官達に念を押し、同意を得ると柚緋達三人と頷き合った。


「―――天涯国王弟、豪殿下が謁見を申し込まれております!」


 謁見の前に立つ扉番(とびらばん)の兵士が豪の来訪を告げる。


 磨大は柚緋に視線を向ける。柚緋はその視線をまっすぐに受け止め、小さく頷いた。


「―――お通ししろ」


 磨大の許可の声を聞き、謁見の間の扉が重い音をたててゆっくりと開いていく。


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