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15.柚緋の覚悟


「―――!」


 ガクガクと体を揺さぶられ、耳元で何事かを叫ばれる。


 焦点が合うまでしばしの時を必要とし、頭がハッキリとしてくると更に大きな声が自分の名を呼んだ。


「おい!柚緋(ゆうひ)!!」


「っ、ま、ひろ?」


 覚醒した瞬間目の前に酷く慌てた様子の磨大(まひろ)の顔があり、柚緋は一歩後退った。


「いきなり二人して動かなくなるから、どうしたかと思ったぞ!!」


 声を荒げる磨大。どうやら相当心配をかけたらしいと悟り、柚緋は素直に謝った。


「すまない・・・」


 その柚緋をかばうように流佳(るか)が一歩前に出る。


「殿下は悪くありません。“光の道”を作る際に“鍵”と“錠”の力が共鳴してしまい、意識が別の場所に一時飛んでしまったのです。その可能性を磨大陛下にご説明していなかった私が悪いのです」


 柚緋を擁護(ようご)する流佳に、磨大は面喰(めんくら)ったように目を(みは)り、それからホッと息を吐いた。


「そうか・・・いや、こちらこそすまない」


「いえ・・・磨大陛下のこんな慌てる姿を拝見することができるとは思いませんでした」


 クスリと笑う流佳。お互いに公式の場でしか会う機会の無い二人だ。それぞれ私人としての顔を見ることなど皆無(かいむ)だ。


 猫被りを看破(かんぱ)されたように感じてバツの悪そうな表情をうかべた磨大は、そっと流佳から顔を背ける。


「ふふっ―――今でこそ立派な地皇をやっているようだが、磨大は昔はとんでもなく尊大で感情豊かな、手のつけられない悪童だったからな」


「おい、柚緋っ」


 子どもの時分(じぶん)のことを持ちだされては敵わないとばかりに柚緋を睨む磨大。その視線をものともせずに柚緋は懐かしげに目を細めた。


「あの頃は、何も知らずに・・・自分は普通に幸せなのだと勘違いしていたのだな。磨大は、知っていたのか?」


 柚緋の役割を。そして、その立場の危うさを。


「・・・ああ」


 顔を背けたまま、溜息交じりに肯定の言葉を吐き出す。


「陰で随分とたくさんの人に動いて貰っていたようだ。私はその恩に報いなければならないな」


 弾かれたように自分へと視線を向けた磨大に柚緋は笑みを向けた。その覚悟を決めた笑顔を見て磨大は苦笑する。


「やれやれ、心配は無用か。例え元老院に捕らえられても、今のお前ならば問題なくあしらえるだろう」


「ああ。“勇砂”としての経験はかなり役立つようだ。もう、何があろうと問題はない。―――が、元老院に盟の町の住人が迷惑をかけられるのはあまりよろしくない」


「ああ、そうだな。・・・これは我々為政者(いせいしゃ)の問題だ。民を巻き込むわけにはいくまいよ」


「地涯城に行こう。決着はそこでつける。―――磨大と流佳は見届け役として側にいてくれれば良い」


 これは“鍵の王子”である自分のけじめでもあるから。


「けじめか。・・・まぁいい。その後のことについてはお前一人で片をつけられるものでもないだろう。そこには私達の出番を作ってもらうぞ?」


「ああ、わかっているよ」


 磨大の言い分に思わず破顔して、柚緋は頷いた。


「では、参りましょう。地涯城に直接繋げましたから、元老院を迎え撃つ準備をする時間くらいは稼げるでしょう」


 流佳が“光の道”を示す。


促されるままにその“光の道”に足を踏み入れる。


“光の道”が眩く輝き、柚緋達は地涯城へと転移した。


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