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14.夢の世界で


『ともに逃げよう』


『私は行けません。私は月影の告知姫だから―――だから、貴方だけでも逃げて』


 ああ、これは夢の内容だ。と柚緋は即座に理解した。


 今は“勇砂”の自宅兼職場にいたはずで、そこで流佳が“光の道”を作り出したということも理解しているのに、自分の意識は夢の中にあると確信できた。


 なぜなら、目の前で起きていることは自分の身に起こったことではないからだ。


「あれは・・・先代の“鍵”と“錠”?」


 柚緋の呟きに目の前の二人は反応しない。つまり、こちらからの干渉は許されず、ただ見ていることしかできない、ということだ。


『このままでは、君が』


『“鍵”である貴方さえ捕らえられなければ、大丈夫です。どうか逃げて』


 “鍵”と“錠”をめぐる悲劇は何度となく繰り返されてきたというのか。柚緋と流佳の状況に酷似したその状況は、柚緋が“勇砂”だった時に何度も見た夢だった。


 夢であったときは彼女の顔を見ることは叶わなかったが、今は“鍵”である彼の表情も、“錠”である彼女の表情もハッキリと見ることができる。


「これは本当にあったこと」


「!」


 突然隣に現れた流佳にギョッとして、柚緋は目を丸くした。


「驚かせて申し訳ありません。・・・ずっと、貴方に夢を見させてきたのは私です。どれだけ貴方が危険な立場にいるのか、知っていただきたかったのです」


「あ、ああ・・・これは、君の仕業だったのか」


「はい。いつの時代も“鍵”と“錠”をめぐる争いが起こり、必ず悲劇となって終わっています。ある時は悪しき物に“鍵”が捕らえられ“錠”を開けることを強要され、それを拒んで自害しました。またある時は“鍵”が悪しき者に利用され、それを知った“錠”が自害しました。そして、ある時は“鍵”と“錠”は心を通わせたものの、悪しき者に追い詰められ“錠”が“光の道”を作り、遠くの国へと“鍵”を逃がしました」


「それが、目の前で起こっていることの結末か」


「そうです」


 頷く流佳の表情からは何の感情も伺えなかった。だが、柚緋はその結末に違和感を覚えた。


「ちょっと待ってくれ・・・“遠くの国”に逃がした?」


「この世界には天涯国と地涯国しかありません。―――いえ、無いと思われています。ですが、それは外部からの干渉を魔力の根源が拒んでいるからであり、この二国以外の国がこの世界には存在しているのです」


「な・・・」


「柚緋殿下、貴方の知るこの世界はとてもとても狭いでしょう?・・・以前は天涯国や地涯国以外の国とも交流はあったのです。ですが“鍵”が生まれるのは天涯国のみであり、“錠”が生まれるのは地涯国のみだけでした。それを利用しようとする者達から常に両国は狙われ続け、ある時の“鍵”と“錠”が両国とその他の国の間に強固な結界を作り、外部からの干渉が一切できないようにしたのです」


 流佳の話で、今まで信じてきた常識がガラガラと崩れていく。


「確かに、この世界は異常なのかもしれない・・・でも、それをおかしいと思ったことは一度も無い」


「そう思わないようにされているのです。二度と、他国の者に利用されることの無いように。ですが、天涯国や地涯国の中にあっても“鍵”と“錠”を利用しようと思う者達が出現しました。だから、滅多なことで行き来ができないように“光の道”のシステムを作り、その管理を両国から一切の影響を受けない魔導協会が行うことになったのです」


「すべては“鍵”と“錠”を守るため、ということか」


「その通りです」


 頷いて、流佳は柚緋の手をとった。


「私は、今回こそは悲劇にしたくありません。だからこそ、余計な真似と知りつつも手を出したりもしました」


「・・・君は、すべての結末を知っているんだな」


「“錠”の使命を担っているからこそ、です。魔力の根源はいつの時代も同じくこの世界にあるものですから」


「そうか・・・」


 柚緋は頷き、流佳の手を握りしめた。


「柚緋、殿下?」


「私も、悲劇はごめんだ。・・・流佳、こんな馬鹿げたことが二度と起きないようにしたい。手を貸してくれるか?」


「―――っ、もちろんです!」




 今代の“鍵”と“錠”が心を通わせた瞬間だった。



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