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12.王子の目覚め

柚緋(ゆうひ)殿下、ご気分は?」


「あ・・・ああ、まだ、混乱してる・・・」


 流佳の問いに、柚緋は頭を押さえながら答える。


「仕方ありません、5年間にわたる“勇砂の記憶”があるわけですから」


「そう、だな・・・盟の町の者達にも随分と迷惑をかけたようだ・・・」


「彼等はあなたに感謝こそすれ、迷惑などとは思ってもいないでしょう。それよりも、大体の事情は思い出されましたね?」


 その確認の言葉に、柚緋はギクリと身体を強張らせた。


「・・・私は“鍵”としての使命をわかっていなかった。叔父上に利用されかかったのは、私の認識不足だ」


「もう殿下はわかっておいでのはず。これからご自分がどうなさるべきか、私に教えて頂けますか?」


 柚緋は流佳を見つめ、フッと微笑む。


「まるで、別人だな・・・」


「数日間でしたが、普通の娘でいるのは楽しゅうございました。今は、月影の告知姫としての役目を担う者に戻っておりますので。・・・それに、殿下も“勇砂”とはまるで別人ですわ」


「そう、だな。・・・私でも、あのような生き方ができるのだな。いい勉強になった」


 自嘲するように笑み、柚緋は流佳をまっすぐに見つめた。


地皇(ちこう)に保護を求めたい。・・・今の私では君の作ったこの結界から出た瞬間に元老院に察知されてしまうだろう。なんとか連絡をとれないだろうか」


「ご心配には及びません。間もなくお迎えがいらっしゃいますわ」


  ニコリと笑った流佳の言葉と同時に扉を叩く音がした。



***



 時は少しさかのぼり、地涯(ちがい)城では地皇のために城勤めの術者の精鋭である魔導師達が集められ“光の道”を人工的に作る準備が始められていた。


 いくら魔導師といえど月影の告知姫のように単独で“光の道”を作るだけの力はない。


 大規模な儀式と魔導師数名の力を要することになる。


 その準備が整うのを待つ地皇・磨大(まひろ)の元に、侍女に支えられた高雅(こうが)がやってくる。


「・・・磨大陛下、どうぞ柚緋王子をよろしくお願いいたします」


 顔色の優れない高雅だが、侍女に支えられたまま深々と頭を下げる。


「わかっている。必ず無事にこちらにつれてくる。・・・柚緋はそなたにとっては大事な弟子だろうが、私にとっても大事な従弟だからな」


「・・・はい」


「陛下」


 高雅が頷くのとほぼ同時に儀式の準備が整った。


「では、始めろ」


「「「はっ」」」


 魔導師達が屈み、術式の描かれた床に手を置くと陣が光を放ち始める。


 その陣の中にゆっくりと足を踏み入れ、磨大はちょうど真ん中で立ち止まる。


「行き先“死人の森”」


 磨大が行き先を告げると陣が一際輝いて転移が完了する。残されたのは力尽きてその場にへたり込む魔導師達。


「・・・どうか、ご無事のご帰還を」


 転移の完了した陣を見つめ、高雅は祈るように呟いた。



***



 転移の光が消えると、磨大は“死人の森”の広場に出る。風に揺れる天涯(てんがい)草を視界に入れ、手土産にするかと思い至って手を伸ばす。


「さて、これで少しは点数稼ぎはできるか」


 思わず苦笑をうかべる。


 不可抗力とはいえ“勇砂の記憶”の中では磨大は大流行した病に対して何の手立ても講じなかった愚王となっているのだ。


 この程度で挽回できるとは思ってもいないが、話を聞いてもらう対価くらいにはなるだろうと踏む。


「これくらいあれば充分か」


 いくつか天涯草を摘み取った磨大は辺りを見回す。


「・・・しかし、もう少し手入れができんものか。いっそのこと魔導師に命じて一気に整備させてしまおうか」


 暗がりを好む死霊術師達には心地が良いのかもしれないが、これでは遭難者が出て、本当の意味で“死人の森”になりそうだ。


 ブツブツと呟きながら草を掻き分けて道なき道を進み、盟の町への入り口に近づいた時だった。術師ではない磨大ですらもわかる大きな力が弾けて消える。


「―――高雅の術が返された!?・・・柚緋っ、無事でいろよ!」


 兄のように慕ってくれた従弟の無事を祈りながら、磨大は駆け出した。

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