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10.盟の町の住人の思い


「地皇が動かれるらしい」


「ああ、ようやく安心できるね」


 盟の町の集会所―――その場に集まっていたのは盟の町の顔役達だった。


「まったく・・・勇砂先生がいつ思い出すかって、気が気じゃなかったよ」


 そう言って溜息をついたのは、よく勇砂に食料の差し入れをしている女性だ。


「まったくだ、あんな細っこい身体でパワフルに動き回るものだから、勇砂先生が町の外に出ないようにするのがどれだけ大変だったか・・・」


 苦笑いをうかべて言ったのは勇砂が行きつけにしている薬屋の店主。


 高雅が勇砂にかけた魔術は“結界の中でのみ柚緋(ゆうひ)王子は勇砂という魔導師である”というものと、それに付随するニセの記憶を植え付ける暗示。


 そして、盟の町全体に“鍵”の存在を隠す結界を張った。地涯国全体はさすがに無理だったと笑っていたが、あれが長期間維持できると判断したギリギリの範囲だったのだろう。


 そして、高雅は結界を5年間維持し続けている。


「しかし、地皇が腰をあげたということは・・・天涯の方で抑えが効かなくなってきたということでしょう?」


 盟の町の長がそう言って後ろを振り返る。


「ええ、元老院の手の者が地涯国に入ってきたという報告が入りました。―――やっぱり、天涯の王族と元老院の権力が同等っていうのがマズイですよね。しかも、現在の元老院のトップは王弟である(ごう)様ですし」


 その長に答えたのは、火印だ。


「・・・元老院を魔導協会と月影の告知姫の予言でどうにかできないものでしょうか?」


 長が言えば、火印は眉間にしわを寄せた。


「うーん・・・月影の告知姫が何を考えているかわからないんですよねぇ。いきなり塔から姿を消したかと思ったら王子の元にいるし」


 唸りながら火印が言えば、盟の町の長は神妙な顔つきで頷く。


「ですが、今は何よりも柚緋殿下の御身をお護りしなくてはなりません。元老院が本格的に動き出せば、我々では太刀打ちできませんし」


「そうですね、もう町の住人だけで護りきれなくなってきているのは確かです。権力には権力で・・・とはいうものの、月影の告知姫がどう動くかでまた変わってくるので、地皇も今の今まで動けないでいたようですよ」


 火印が言うと、盟の町の長はガックリと肩を落とした。


「姫と直接話ができれば良いのですが、柚緋殿下の御側(おそば)を決して離れようとはなさらないので」


「そうそう。それに、結界を張って術師は近づけないようにされていますから、魔導協会には話す気はないって感じなんですよねぇ」


 盟の町の長に同意するように頷きながら言う火印。


 元老院を警戒しているのか、月影の告知姫こと、流佳の力で魔導協会の者が勇砂の仕事場に入り込むことは事実上不可能にされてしまった。


 ここまでくると、地皇自身が交渉に出向くぐらいでないと応じる気は無いように思えてくる。


「・・・やっぱり、地皇頼み・・・か」


 盟の町の長が溜息交じりに言えば、町の顔役達は神妙な顔をして頷く。


 なぜここまで盟の町の住人が天涯国の王子である柚緋に入れ込んでいるのか―――それは5年前に大流行した病にかかった町の住人を救ったのが、高雅に連れられて天涯国から脱出したばかりの柚緋だったからだ。


 “勇砂の記憶”では自身は魔導師となるために師と旅をしていて難を逃れ、両親が病に立ち向かって住人達に感謝されていることになっているが、真実は柚緋が“鍵”として得た魔力を使ってその事態を収束させたのだ。


 そして、病にかかることを恐れて町の外に出ていた者達が町へ戻り、その事実を知る前に隠蔽工作(いんぺいこうさく)をしたのが高雅だった。柚緋を護るために、救われた者達の感謝の気持ちを利用したというわけだ。


 だが、当然救われた者達は利用されたなどと思ってはいない。特に町の長とその妻は柚緋に心の底から感謝していた。


 町の住人が次々と倒れていくなかその対応に追われていた2人が気づかぬうちに罹患(りかん)していた幼い娘。2人が気づいたときにはもう手遅れで治癒法術師にも見放されてしまった。


 そんなときに柚緋が救いの手を差し伸べてくれたのだから当然だ。


「火印坊っちゃん・・・勇砂先生の居場所が元老院知られるのも時間の問題だ。ここは思い切って地皇に動いて頂いて、地涯城に連れてっちまったほうがいいだろう」


 薬屋の店主が言えば、火印はこくりと頷く。


「そうですね、元老院・・・豪様の手の者が地涯国にまで入ってきたことを考えると、このままでは危ないでしょう。・・・多少の無理をしてでも柚緋殿下を地涯城に連れて行った方がいい」


「しかしねぇ・・・勇砂先生の中で地皇の評価はガタ落ちだからねぇ」


 大流行した病を収束させる努力をしなかったと思っている勇砂の地皇への印象はかなり悪い。いつも勇砂に食事を差し入れていた女性がぼやく。


 実際は地涯国に所属する死霊術師を全員召し上げて、あの病の原因を探り出し、特効薬を作るように命じたのは当時皇子だった現地皇の磨大だ。


 病によって死んだ者達を扱うことができたのは死霊術師だけだというのに、ただ死にゆく住人達を看取りその遺体を研究するだけに留めるなと喝を入れたのだ。


「・・・そこは、地皇に月影の告知姫を説得してもらってからの話でしょう」


 火印はクスリと笑う。


 豪に“鍵”である柚緋が連れ戻されれば、肉親の情に訴えて“錠”を開けさせてしまう可能性は高い。


 “錠”に封じられている“彼女”(魔力の根源)を豪が手に入れれば、世界中が混乱の渦に巻き込まれるだろう。


「・・・何としてでも柚緋殿下を天涯の元老院から護らなければ!そのためにも地皇には早々に姫を説得していただこう!」


 町の長に同調するようにその場の者達が頷いた。


2012/10/29 改編

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