第09話 検問突破
某国の国境付近。険しい山々に囲まれたこの地域は、現在、軍の厳重な警戒態勢下に置かれている。
特に、電子戦の拠点と化した古城カチナイーヨ要塞へと続く一本道には、数メートルおきに最新鋭の監視カメラと、武装した兵士が配置されていた。
だが、そんな鉄壁の防御陣の中に、一人の男がトボトボと歩いていた。
俺だ。
服装は、現地で調達した、少しサイズの合っていない軍服。ちょっとかび臭い。
「止まれ! 貴様、どこの所属だ!」
鋭い声と共に、三人の兵士が銃口を向けてくる。
普通ならここで心臓が止まるような場面だが、俺は慣れた手つきで、ポケットからクシャクシャになった納品書を取り出した。
「あ、お疲れ様ですー! すみません、下の中隊からアンテナの予備部品を届けるように言われてきた新人です。ほら、これ。……えっと、ここ、坂道きついっすねぇ」
言葉は完璧。それどころか、この地方の兵士たちが使う語尾を少し伸ばす特有のクセまで再現してある。
兵士たちは顔を見合わせた。俺の顔をまじまじと見つめるが、そこにあるのは配属されて三日目くらいで、まだ仕事の段取りが分かっていない、要領の悪そうな新兵のそれだった。
「……アンテナの部品? そんな話聞いてないぞ」
「えっ、マジっすか? 参ったなぁ……また怒られちゃうよ。あ、もしよかったらこの煙草、一本どうですか? 」
俺は自然な動きで、煙草を差し出した。
兵士の一人がそれを受け取り、鼻先で匂いを嗅ぐ。
「……ふん、気が利くじゃないか。まぁ、最近は上の連中も現場を混乱させてばかりだからな。さっさと行け。ただし、奥の司令室には近づくなよ」
「ありがとうございます! 助かります!」
突破。
俺の「新人顔」スキルは、組織が大きければ大きいほど、そして緊張感が高ければ高いほど効果を発揮する。こんな時に部外者が堂々と歩いているはずがないという心理的バイアスが、俺をただの使い走りの新人に仕立て上げるのだ。
要塞の内部に入ると、そこはまさに中世と現代が合わさった空間だった。
重厚な石壁に、不釣り合いな光ファイバーケーブル。歴史的な彫刻の隣には巨大なサーバーラックが並んでいる。
「……ふむ。ここはオレンジの炎よりも、青白い炎が映えそうだな」
俺はポケットに忍ばせた、炎色反応用の金属粉を混ぜた特製爆弾を取り出した。
配置場所は、あえて軍事的に重要な箇所ではなく、爆発した時に城のシルエットが一番美しく見える場所を選んだ。
壁の隙間に、配線の一部を装って仕掛けていく。
途中、将校クラスの男とすれ違ったが、「お疲れ様です、トイレどこっすか?」と聞いたら親切に教えてくれた。もはや潜入というより、ただの職場訪問である。
仕込みはすべて終わった。
あとは、月が一番いい位置に来るのを待つだけだ。
「あ、ついでに食堂で何か食べていくか」
俺は堂々と軍の食堂へ入り、地元の豆料理をご馳走になった。コレなんの豆だろ。結構、旨い。
誰も、数時間後にこの美しい古城が七色の炎に包まれることなど、夢にも思っていない。
昔やった潜入系のゲーム。兵士がポンコツで笑ったな。




