第05話 おじさんのコミュ力
「動画か……。いや、編集なんてできないしな。やっぱり、もっとインパクトのある映えが必要だ」
四畳半で納豆を啜りながら、俺は次なる作戦を練っていた。
基地爆破が事故で片付けられたのは、おそらく物語が足りなかったからだ。次はもっと、誰が見てもこれはヤバい事件だと一目でわかる場所がいい。
目をつけたのは、某国の独裁政権が威信をかけて建設した、海上に浮かぶ巨大石油掘削プラットフォーム。その実態は、周辺諸国の通信を傍受する巨大な盗聴基地だと噂されている場所だ。
「ここが燃えれば、今度こそバズるだろ。海の上なら火柱も目立つしな」
俺はすぐさま行動に移した。
今回の潜入ルートは、現地のテロリスト組織を利用することにした。彼らがプラットフォームへの襲撃を計画しているという情報を、ダークウェブで拾ったのだ。
数日後。俺は中東のとある街の、怪しげな地下バーにいた。
見るからに物騒な男たちばかりだ。彼らはテーブルを囲み、プラットフォームの設計図を広げて怒鳴り合っている。
「……だから、正面から突っ込んでも返り討ちだと言っているだろうが!」
「黙れ! 我々の聖戦に退却の文字はない!」
そこへ、俺は「新人顔」を全開にして、トレイに乗せたビールを運びながら割り込んだ。
「お疲れ様ですー。追加の飲み物お持ちしました」
完璧な現地語。それも、その地方特有の訛りを正確に再現して。
議論していた男たちが一斉に俺を見た。
「あ? ……なんだお前、新入りか?」
「はい、今日からこの店で世話になってるジャックです。実は自分、あっちのプラットフォームの配管工事にいたことがありまして。ここ、裏側からなら簡単に入れる場所ありますよ?」
俺は設計図の一点を指差した。
男たちは顔を見合わせた。俺のあまりに自然な「新入りのジャック」オーラに、誰も「なぜ日本人がここにいるのか」という疑問すら抱かない。
「ほう……ジャックと言ったか。貴様、詳しいじゃないか」
「いえいえ、ただの新人ですから。あ、このビールはサービスです」
俺の言語能力は、単に言葉が話せるだけじゃない。その文化、その土地の空気に合わせた喋り方ができる。これに「新人顔」が組み合わさると、どんな過激な組織であっても「あ、なんか今日から来た便利な奴」として受け入れられてしまうのだ。
「気に入ったぞジャック! お前も俺たちの作戦に参加しろ!」
「えっ、いいんですか? 光栄です!」
俺はテロリストの親玉に肩を組まれ、豪快に笑った。
もちろん、彼らの聖戦とやらに興味はない。俺が欲しいのは、彼らのボートに乗ってプラットフォームまで運んでもらう足と、純粋な戦力だ。
(テロリストと一緒に写れば、今度こそ加工とは言われないはずだ。悪の組織に捕まった一般人ヒーロー、みたいな構図でいこうかな)
俺は心の中で自撮りのシミュレーションを繰り返す。
一方、テロリストたちは「神が導いてくれた!この出会いに乾杯!!」と盛り上がる。
こうして、オレを乗せたテロリストのボートは、月明かりのない海へと出航。
いいね、順調だ。
ダークウェブってワード、一度使ってみたかったんですよ。
どんなもんか全く知らんけど。




