第04話 クソコラ職人
帰国した翌朝。俺は期待と不安が入り混じった、まるで合格発表を待つ受験生のような心地で目を覚ました。
四畳半のアパート。枕元に置いたスマホを手に取り、まずはXを確認する。
「……増えてない」
インプレッションは一晩経って『32』。いいねは相変わらず『0』だ。
それどころか、唯一ついていた「AI生成乙」というリプライに対し、さらに別のユーザーから追い打ちがかかっていた。
『おじさんの自撮りとか需要ないから、せめて美少女に生成し直せば?』
生成ってなんだよ。AI生成なんて血の通ってない作品じゃねぇか!
俺はスマホを畳に叩きつけそうになったが、修理代がもったいないので思いとどまった。
テレビをつけると、ニュースキャスターが慌ただしく速報を伝えている。
『昨日、某国の軍事基地にて大規模な爆発事故が発生しました。現地の発表によりますと、老朽化した燃料タンクからの漏洩が原因と見られ――』
「事故だと!?」
俺は思わずテレビに向かってツッコミを入れた。
あの完璧な爆破シーン。あれを事故で片付けられるのは、プロとして……いや、爆破アーティストとして心外だ。あれは計算された爆破なんだよ。
だが、ニュースは続く。
『一方、隣国の諜報機関は「敵対国によるサイバー攻撃の可能性がある」と分析。ネット上では「新型兵器の実験失敗ではないか」との憶測が飛び交っており……』
某ネット掲示板には、陰謀論や政治的な議論で埋め尽くされていた。
俺の自撮り画像は完全に埋もれていた。
たまに誰かが俺の画像を見つけても、
『またデマ画像流してる奴がいるよ』
『基地爆破のど真ん中でピースしてるおっさん、シュールすぎて草』
『不謹慎、コラとしてのクオリティは低いな』
といった反応で、スルーされていく。
世界を震撼させたはずの俺の作品は、ネットの海では下手なクソコラ以下の扱いだった。
「……なんでだよ。俺、あんなに頑張って泳いだのに」
虚しさがこみ上げてくる。
命を懸けた潜入。完璧な爆破。
なのに、今の俺の繋がりといえば、昨日から変わらないフォロワー3人だけ。
一人は、以前バイトしていた警備会社の公式アカウント。
一人は、謎の投資勧誘アカウント。
そして最後の一人は――『毎日ポエムを呟く謎の匿名垢』。
その時、スマホがピコンと鳴った。通知だ。
期待に胸を躍らせて画面を見ると、投資勧誘アカウントからDMが届いていた。
『突然失礼します! 月収100万目指しませんか?』
「……目指さねぇよ。俺が欲しいのはフォロワーだよ」
俺は力なく溜息をつき、冷蔵庫から賞味期限の切れた納豆を取り出した。
四畳半の静寂を納豆をかき回す音が響く。
虚しい。
しかし、俺はまだ諦めていなかった。
承認欲求という名の怪物は、一度餌を与えられると(たとえそれが悪口であっても)、さらに飢えていくものらしい。
「静止画がダメなら……動画か?動画なのか!?」
佐藤の瞳に、再び危うい光が宿る。
おじさんの、承認欲求の旅は、まだ始まったばかりだった。
んなわけあるか。




