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無敵の隠密おじさん、国境を超えて爆破してきたが、Xのフォロワーは3人  作者: ゼンショー・シマァス


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第03話 シャッターチャンスは一度きり

 基地の背後にそびえる山の標高は約八百メートル。

 道なき道を突き進む俺の足取りは軽い。現役時代はこれより険しい山を、数十キロの装備を背負って駆けていた。それに比べれば、スマホと予備バッテリー、そして少しのワクワク感だけを抱えた今の登山は、近所の公園を散歩しているようなものだ。


「……うん、ここだ。ここがベストだ」


 山の中腹、視界が開けた岩場に到着した。

 眼下には、谷間にひっそりと佇む軍事基地が一望できる。模型のように整然と並んだ兵舎。


 ワクワクが止まらない。


 夕闇が迫り、基地の照明がポツポツと灯り始めた。夜景としての映えも申し分ない。


 俺は岩場にスマホを固定し、セルフタイマーの準備を始めた。

 爆破のタイマー設定までは、あと五分。


「画角はどうだ? 基地が左に寄りすぎか? いや、爆炎の広がりを考えると、中央を空けて俺が右側に立った方がバランスがいいな……」


 何度も立ち位置を確認し、地面に小さな石でマークを付けた。

 俺の存在感の薄さは、自撮りにおいても牙を剥く。オートフォーカスが俺を認識せず、後ろの岩山にピントが合ってしまうのだ。


「勘弁してくれよ。主役は俺なんだぞ」


 格闘すること数分、ようやく俺の鼻先にピントが固定された。

 腕時計の針が、運命の時刻を指す。

 五、四、三、二、一。


 ――ズ、ズゥゥゥゥン!!


 腹の底を揺さぶるような重低音が、谷底から突き上げてきた。

 一拍置いて、視界が真っ白に染まる。基地の中心部が巨大な火の玉と化し、夜空を昼間のように照らし出した。衝撃波で周囲の森が波打ち、遅れて凄まじい爆音と熱風が山を駆け上がってくる。


 その瞬間、俺はカメラに向かって最高の笑みを浮かべ、指でピースを作った。


 カシャッ。


「……撮れた。完璧だ」


 スマホの画面を確認する。

 背後の爆発は、映画のクライマックスでも拝めないほどの迫力だ。オレンジ色の光が俺の輪郭を縁取り、これ以上ないほどドラマチックな一枚に仕上がっている。

 地獄のような爆音の中、達成感に浸っていた。


 さて、余韻に浸っている暇はない。

 基地内では非常ベルが鳴り響き、サーチライトが狂ったように周囲を照らし始めている。すぐに軍が動くだろう。


 俺は手際よく機材をまとめると、再び闇の中へと溶け込んだ。

 帰りも同じく遠泳だ。体温を奪う夜の海も、今の俺にとっては興奮を抑える心地よいクールダウンに過ぎない。

 頭の中にあるのは、帰国後の投稿のことだけだった。


(これは……いくな。確実にトレンド入りだ。リポストの通知でスマホが壊れたらどうしよう。今のうちに通知設定をオフにする方法を調べておかないとな)

 うへへへ。


 そんな取らぬ狸の皮算用をしながら、俺は国境の海を黙々と泳ぎ続けた。

 世界を揺るがす大事件の犯人が、わずか数時間後には成田行きの機内で「投稿の内容はどうしようか、   シンプルな文言の方がウケるかな」と悩んでいることなど、誰も知る由もない。


 そして。

 帰国した俺を待っていたのは、冒頭の「インプレッション:12」という絶望の数字だったのである。


オートフォーカスって合わないんですよねぇ。

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