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無敵の隠密おじさん、国境を超えて爆破してきたが、Xのフォロワーは3人  作者: ゼンショー・シマァス


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26/30

第26話 世界震撼、佐藤沈黙

 その画像は、投稿からわずか三時間で「歴史上最も拡散された自撮り」となった。


 虹色の煙に包まれる黄金の宮殿と、朝焼けを背に座る無名のおじさん。

 CNN、BBC、ロイター。世界中の大手メディアが番組を中断してこの画像を報じ、ネット上では数百万人のフォロワーを持つセレブたちが「これこそが現代の自由の象徴だ」とリポストを繰り返した。


 だが、その熱狂の中心にいるはずの『無敵の隠密おじさん』は、忽然と姿を消した。


「……あー、やっぱり海外の空港の椅子は固いなぁ」


 隣国の地方空港。佐藤は、搭乗待ちのベンチで首を鳴らしていた。

 彼のスマホは、通知が多すぎてついにフリーズし、今はただの文鎮と化してポケットに転がっている。


 周囲のテレビモニターでは、自分が爆破した宮殿の映像が流れ、アナウンサーが興奮気味に「犯人の行方は依然として不明です。一説には、特殊能力を持つ超能力者か、高度なステルススーツを纏ったサイボーグではないかと言われており……」と解説している。


 そのモニターのすぐ下で、佐藤はおにぎりを食べていた。

 横を武装した空港警察が何度も通り過ぎるが、誰も佐藤を見ない。

 彼らの脳内にある『犯人像』は、漆黒のスーツに身を包んだ冷酷なエージェントであり、目の前で「あ、このおにぎり、少しパサついてるな」と呟いているおじさんではない。


 佐藤は、ようやく再起動したスマホの画面をチラリと見た。


【フォロワー:1,250,000人】


「……ひゃ、百二十万……」


 数字が大きすぎて、もはや実感が湧かない。

 かつて卒業アルバムから消された男が、今、地球上の百二十万人の画面の中に存在している。

 承認欲求という名の怪物を飼い慣らそうとしていた佐藤だったが、あまりにも巨大になりすぎたその反応に、少しだけ気圧されていた。


 彼は、新しいポストを作ろうとして、手を止めた。


(……いや、今は何も言わない方が『映える』んじゃないか?)


 これもまた、SNS攻略本で学んだテクニックだ。『ミステリアスな沈黙は、価値を高める』。

 佐藤は、世界が自分を探し、自分について語り合っているこの瞬間を、静かに楽しむことに決めた。


 一方で、某国の諜報局。

 アナ(@poem_lonely_night)は、虚脱感の中でモニターを見つめていた。

 佐藤の信号は、空港の雑踏の中に消えた。

 彼女には分かっていた。彼はもう、この国にはいない。そして、彼を捕まえることは誰にもできない。


「……沈黙か。最後まで食えないおじさんね」


 彼女は自分のスマホを手に取り、ポエム垢として最後のリプライを送った。

『お疲れ様。……今日の空は、あなたの虹のせいで、少しだけ優しく見えます』


 佐藤は、飛行機の機内モードをONにする直前、そのリプライだけを読み、満足そうに目を閉じた。

 120万人の喝采よりも、たった一人の「お疲れ様」が、今の彼には心地よかった。


 宮殿を爆破し、世界を震撼させた男を乗せた格安航空機は、静かに滑走路を飛び立った。

 目的地は、成田。

 明日にはまた、時給1,100円の警備員の仕事が待っている。



セレブって何食べてんだろ。無農薬野菜とか?

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