第25話 爆破、そして最高の一枚
宮殿の混乱は頂点に達していた。
佐藤は「新人作業員」として瓦礫を運びながら、宮殿の最上階、独裁者が世界を見下ろすために作らせた『展望閣』へと辿り着いた。
そこは、かつて独裁者が贅を尽くしたプライベート空間だったが、今は佐藤が仕掛けた精密爆破によって、軍事アンテナだけが綺麗に剥ぎ取られ、皮肉にも本来の「絶景」が剥き出しになっていた。
「……ここだ。ここが、俺の戦場の終着点だ」
佐藤は作業員のヘルメットを脱ぎ、瓦礫の上に置いた。
眼下には、自分が潜入した山々が朝焼けに染まり始めている。背後では、宮殿の基部にある弾薬庫が、俺の「置き土産」によって最後の連鎖爆発を起こそうとしていた。
佐藤は三脚を立てた。
今度は動画ではない。あのアナ――「ポエム垢」の彼女が、そして松田さんが、そして5万人のフォロワーが、一目で「これは、そこに彼がいた証だ」と確信できる、究極の静止画を撮る。
起爆タイマーは残り10秒。
佐藤は、独裁者が座っていた黄金の椅子を、展望閣の端、朝焼けが最も美しく差し込む場所へと引きずり出した。
10、9、8……。
佐藤は椅子に深く腰掛けた。
煤で汚れた作業着。ボサボサの髪。だが、その背筋はかつてないほど伸びている。
3、2、1。
――ゴォォォォォォォォォン!!
地響きと共に、宮殿の基部から巨大な「七色の煙」が噴き出した。
それは爆炎ではなく、佐藤が最後に調合した、大量の炎色反応粉末とスモークによる「虹のカーテン」だった。
虹色の煙が、宮殿を包み込むように空へと昇っていく。その幻想的な光景の中、展望閣の窓から差し込む朝焼けが、佐藤の横顔を神々しく照らし出した。
カシャッ。
撮れた。
そこには、崩れゆく独裁の象徴と、美しく再生する空。その真ん中で、ただ静かに夜明けを見つめる一人の「おじさん」の姿があった。
ピースサインも、ドヤ顔もない。ただ、一つの仕事を終えた男の、空虚で、それでいて満たされた背中。
「……よし。帰ろう」
佐藤はスマホをポケットにしまい、爆発の余韻で立ち込める煙の中へと歩き出した。
一時間後。
世界中のX(旧Twitter)のタイムラインが、一枚の画像によって停止した。
【無敵の隠密おじさん:@lonely_shadow_45】
『夜が明けました。皆さんの朝が、少しでも明るくなりますように。』
その画像には、1分で10万いいねがついた。
「不謹慎だ」「テロだ」と言っていたアンチたちさえも、その圧倒的な「美」と「存在感」の前に沈黙した。
アナは、モニターの前で涙を流していた。
「……バカね。あんな場所で、あんなに綺麗に笑って。……無事でいなさいよ、おじさん」
佐藤は、混乱する宮殿の門を眠そうな顔で通り抜け、朝日の中へと消えていった。
彼が手に入れたのは、100万のフォロワーではなく、自分という存在が確かにこの世界にあるという、たった一枚の「真実」だった。
アナの情緒やば。




