第24話 宮殿での「新人」無双
軽トラックで逃走を図った佐藤だったが、街全体が軍の緊急封鎖によって籠の鳥と化していた。
「参ったな……これじゃ空港どころか、次の街にも行けないぞ」
佐藤はハンドルを叩いた。背後からはサイレンの音が迫っている。
普通なら絶体絶命の窮地。だが、佐藤の思考は常人とは違った。
「……逆に、今一番安全なのはどこだ?」
彼は視線を上げた。そこには、先ほど自分が爆破(清掃)したばかりの、煙を上げる『黄金の宮殿』がそびえ立っていた。
そう、灯台下暗し。軍も警察も「犯人は遠くへ逃げた」と思い込んでいる今、混乱の極致にある現場こそが最大の死角なのだ。
佐藤はトラックを捨て、歩いて宮殿の正門へと戻った。
そこには、応援に駆けつけた他地区の部隊や、消火活動に当たる消防隊員、そして何より「状況が把握できず右往左往する大量の職員」が溢れていた。
佐藤は路地裏で拾った汚れたヘルメットを被り、落ちていた腕章を適当に巻き、列の最後尾に並んだ。
「お疲れ様ですー。応援の資材搬入チームの新人です」
宮殿のセキュリティチェックは、爆破の影響でシステムがダウンし、完全な手動――つまり「顔パス」になっていた。
「お前、どこの所属だ!?」
「あ、第4設営の新人です。予備の電源コード、地下に運べって言われて」
「第4か! 人手が足りん、あっちの瓦礫撤去も手伝え!」
「はい、了解っす!」
突破。
佐藤は、自分がたった今爆破した現場に、あろうことか「復旧作業員」として堂々と再潜入を果たしたのである。
宮殿の廊下は、まさに「新人顔」の独壇場だった。
最新の生体認証ドアは物理的に破壊されており、警備兵たちは「お前誰だ!」「新人です!」「あ、そうか、通れ!」というガバガバなやり取りを繰り返している。
佐藤は壊れたサーバー室で、軍の幹部たちが「犯人はどこの国の特殊部隊だ!?」と激論を交わしている横を、「失礼しますー」とゴミを拾いながら通り過ぎた。
その時、佐藤のスマホが震えた。アナ(ポエム垢)からのDMだ。
『おじさん、信号が止まったわ……まさか、捕まったの!? 返信して!』
佐藤は、瓦礫の陰に隠れて自撮りをした。
背景には、怒鳴り散らす軍の司令官と、必死に消火活動をする兵士たち。その中心で、作業員に扮した佐藤が、こっそりと親指を立てている。
【無敵の隠密おじさん:@lonely_shadow_45】
『現場に戻ってきました。みんな忙しそうなので、手伝ってきます。 #職場体験 #宮殿なう』
送信。
このポストが、再び世界をひっくり返すことになる。
「……嘘でしょ」
モニターの前で、アナは椅子から転げ落ちた。
世界中の諜報機関が総力を挙げて追っている男は、今、ターゲットの隣で瓦礫を運んでいる。
「この男……頭おかしいの……!?」
佐藤は、司令官に「おい新人! 重いからこれを持て!」と言われ、「はい、喜んで!」と爆弾の空き箱(自分が持ち込んだやつ)を運ぶという、究極の「新人無双」を演じ続けていた。
なろうと言えば、無双ですよね。




