第22話 有名インフルエンサーの反応
「……どういうことだ? 軍の衛星にロック?」
隣国の薄暗いネットカフェで、佐藤はスマホ画面を凝視した。
ポエム垢からのDM。普段は「夜空の寂しさ」とか呟いているアカウントが、急にスパイ映画のような専門用語を並べている。
佐藤は迷った。この動画を上げれば、間違いなく俺は時代の寵児になれる。だが、死んでしまってはフォロワーの増減を確認することもできない。
そんな中、佐藤が「送信」ボタンの上で指を震わせているその瞬間。
画面が突如として通知の嵐に飲み込まれた。
【スゲエ@公式:@Sugee_official】
『ちょwwwww おじさん、動画アップロードの「待機画面」が漏れてるんだけど!!
Xのバグか何かで、投稿前のサムネイルが一部のユーザーに公開されてる!
これ、独裁者の玉座だよね? 爆煙上がってるよね? おじさん、またやったの!? #隠密おじさん #ガチの英雄説』
「な、なんだって……!?」
どうやら、不安定なネット回線と格闘していた際、アップロードのキャッシュが中途半端に「公開設定」に近い状態でサーバーに残り、それを特定班とレオが速攻で見つけ出したらしい。
レオがその「中途半端なサムネイル(玉座でピースする煤けたおじさん)」を引用リポストしたことで、世界中のネット民が一斉に佐藤のアカウントへなだれ込んだ。
『うおおおお! おじさん生きてた!』
『サムネだけで分かる、これマジなやつだ!』
『宮殿のサーバーが落ちたってニュースと完全にリンクしてる!』
レオはさらに興奮気味に動画を配信し始める。
「みんな、これ見て! このおじさん、宮殿を爆破した直後なのに、スマホの電波探してネットカフェにいるっぽいんだよ。この『不器用な英雄』感、たまんなくない!? 俺、今日からおじさんのガチ勢になるわ!」
佐藤のフォロワー数は、秒単位で千人ずつ増えていった。
1万、3万、5万……。
一方で、佐藤を狙う「本物」たちも動き出していた。
ネットカフェの窓の外、深夜の通りを、音もなく黒いSUVが数台走り抜ける。
『おじさん、早くそこを離れて! 私が衛星データをハッキングして時間を稼ぐから!』
ポエム垢からの必死のメッセージ。
佐藤は、画面の中の「爆速で増え続けるフォロワー数」と、窓の外から聞こえる「タイヤの軋む音」を交互に見た。
「……フォロワー5万人。……人生、最良の日だな」
佐藤は、送信を保留していた宮殿爆破のフル動画ファイルを、ゴミ箱に放り込んだ。
「いいね」よりも、今は生き延びて、この5万人の反応を明日も見ていたい。
彼はネットカフェの裏口から、ゴミ回収の「新人スタッフ」のような顔をして、夜の街へと消えていった。
サムネは大事!




