第21話 動画なら信じてもらえるか?(リベンジ編)
独裁者の玉座。本来なら一国の主のみが座ることを許されるその場所に、佐藤はどっしりと腰を下ろしていた。
だが、彼の心にあるのは権力への野心ではない。凄まじいまでの「自撮りへの執念」だ。
「よし、今度は絶対に失敗しない。物理ボタン、ヨシ。予備バッテリー、ヨシ。レンズの汚れ、ヨシ」
彼は三脚を玉座の正面に立て、最新のウェアラブルカメラを胸に装着し、さらに予備のスマホを柱の陰に隠して定点観測の準備を整えた。
「バックアップは三重だ。これなら軍用機が墜落しても映像は残る」
佐藤は爆弾の起爆装置を膝の上に置き、カメラの録画ボタンを一つずつ丁寧に押し込んだ。
液晶画面に、赤い「●REC」の文字が灯る。
「……動いてる。動いてるぞ! 俺の姿が、生きたまま記録されてる!」
彼は感動に震えた。これまでの人生、卒業アルバムからも、戦場の記録からも、ことごとく消し去られてきた。だが今、この瞬間、45歳のありのままの姿がデジタル信号として刻まれているのだ。
佐藤はカメラに向かって、静かに語りかけ始めた。
「……えー、フォロワーの皆さん。無敵の隠密おじさんです。今、私は某国の宮殿、その心臓部にいます。これから、この豪華すぎる内装を、私の特製爆弾で『清掃』したいと思います。……あ、宮殿自体は壊しません。軍事用サーバーと、この成金趣味な金メッキのアンテナだけを狙います」
彼は立ち上がり、玉座の前で一礼した。
そして、手元のスイッチを優雅に押し込んだ。
――ドォォォォォン!!
瞬間、宮殿の裏側にあるサーバー棟が七色の火柱を上げ、衝撃波が玉座の間を駆け抜けた。
天井の金箔が吹雪のように舞い落ち、窓ガラスが芸術的な音を立てて砕け散る。
その光の渦の中で、佐藤は渾身の「いいね」ポーズを決めた。
「どうだ……! これが、加工なしの、45歳の実力だぁぁ!!」
爆風で髪がボサボサになり、顔は煤で汚れている。だが、その瞳はかつてないほど輝いていた。
録画時間は約2分。爆発の開始から、衝撃波の余韻、そして最後に佐藤がカメラを止めるために駆け寄る「ドタドタ音」まで、完璧に収録された。
佐藤はカメラをひったくるように回収し、混乱に陥る宮殿を後にした。
数時間後。隣国へ逃れた佐藤は、カフェの無料Wi-Fiに接続した。
「……いよいよだ。世界が、俺を見る」
彼は、一切の編集を加えないRAWの動画ファイルを、震える指でアップロードした。
タイトルは、『宮殿で自撮りしてみた(本物)』。
だが、その瞬間。
佐藤のスマホに、一通のダイレクトメッセージが届いた。
送り主は、あの「ポエム垢」――アナだった。
『おじさん、逃げて。今、あなたのIPアドレスが軍の衛星にロックされたわ。その動画を上げたら、あなたは英雄になる前に、跡形もなく消される。……お願い、私を信じて』
「……え?」
佐藤の指が、送信ボタンの数ミリ上で止まった。
初めて届いた、フォロワーからの真剣な警告。
英雄か、生存か。おじさんの承認欲求が、最大の岐路に立たされていた。
成金趣味の何が悪い。




