第02話 新人顔というスキル
俺は格安航空券で某国の隣国へと飛んだ。
観光客を装い、現地のスーパーやホームセンターをハシゴする。買ったのは、・・・いや、書くのはやめておこう。真似されたら危ないからな。
「よし、材料は揃ったな」
安宿の薄暗い一室で、俺は黙々と作業を開始した。
傍から見れば、図工に励むおじさんにしか見えないだろう。実際、俺は昔から図工が得意だった。設計図は全て頭の中にある。
えっと、これを導線と繋ぎ、スマホのタイマーで制御できるように加工してっと。元プロの技術をもってすれば、その辺にある日用品が、一国を震撼させる作品へと変わる。アーティストと呼んでくれ。
完成した特製爆弾を防水バッグに詰め込み、俺は夜の海岸へと向かった。
目指す基地は、国境を越えた先。直線距離にして約五キロ。
「久々に泳ぐか」
ウェットスーツを着用し、俺は音もなく海へ入った。
普通、五キロを泳いで潜入するなど正気の沙汰ではない。だが俺には、無駄に体力がある。
海面を滑るように進む。途中、数隻の沿岸警備艇がサーチライトで海面を照らし出した。
光の輪が俺のすぐ数メートル横を通り過ぎる。
だが、俺は潜りもしない。ただ脱力し、波の揺らぎに体を合わせるだけだ。
深夜の海に人が泳いでいるはずがないという常識のフィルターが、俺の姿を闇夜と同化させた。
数時間後。俺は敵国の海岸に無事上陸した。
目的地は、首都から遠く離れた山間部の谷にある軍事基地だ。
濡れたウェットスーツを脱ぎ捨て、現地で調達した作業着に着替える。
この後、俺の「新人顔」というスキルが発動する。
基地の検問所。
自動小銃を構えた衛兵が、鋭い視線でこちらを睨む。
俺は隠れるどころか、堂々と正門から歩み寄った。そして、爽やかな笑顔で右手を挙げた。
「お疲れ様です! 今日から配属になった新人です」
もちろん、現地の言葉だ。訛り一つない完璧な発声。
衛兵は一瞬、怪訝そうな顔をしたが、俺の顔をまじまじと見るなり、銃を下ろした。
「……今忙しいから早く入れ」
「すみません、どうすればいいんですか」
「ったく、これだから新人は。ほら、名簿に名前書いとけ。……まあ、お前の名前は後で確認するからいいや。さっさと中に入れ。資材搬入の手伝いだ」
突破。
俺の顔には、どんな組織にも一人はいる「今日入ったばかりの気のいい新人」というオーラが張り付いている。昔からいるだろ。そんなやつ。
関係者じゃないのに関係者扱いされる。二度目に会う時には「え、誰だっけ?」と思われるほど印象に残らない。
俺は親切な衛兵に案内され、あろうことか基地の内部見学までさせてもらった。
「ここが弾薬庫で、あっちが司令棟だ。新人は立ち入り禁止だからな。まあ、今日だけは見逃してやるが」
「へぇー、すごいですね。勉強になります!」
俺は感心したふりをしながら、すれ違いざまに勉強代として、建物の基礎となる柱の裏や、通気口の奥に特製爆弾をそっと置いていく。
作業はわずか十分で終了した。
最後に、俺は再び「お疲れ様でした!」と挨拶して正門から出て行った。
「よし。あとは最高のフォトスポットを探すだけだ」
背後の山を登りながら、俺はスマホを取り出した。
どんなに良い爆破でも、構図一つで台無しになる。
全ては、Xにアップする最高の一枚のために。
無理あるだろ。




