第17話 リアルでの唯一の理解者?
ネットの喧騒から逃れるように、佐藤は近所のコンビニへと足を向けた。
コンビニの自動ドアが開く。
「いらっしゃいませー……」
レジに立っていたのは、深夜帯の常連である女子大生のアルバイト店員だった。名前は確か、名札に 松田とあった気がする。
佐藤はいつものように、値引きシールの貼られた弁当と、缶コーヒーをレジに置いた。
会計を待つ間、佐藤は無意識にスマホの画面を確認した。そこには、あのカチナイーヨ要塞の七色爆破の写真が映っている。
「……あ」
佐藤が慌てて画面を消そうとした時、松田さんが身を乗り出して画面を覗き込んだ。
「あ、それ。……おじさんの写真ですか?」
佐藤の心臓が跳ね上がった。正体がバレたか? 通報されるのか?
「え、あ、いや。これはその、ネットで拾ったというか、合成というか……」
動揺してしどろもどろになる佐藤に、松田さんはふふっと微笑んだ。
「そのエフェクト、すごくかっこいいですよね。私、デザイン系の学校に通ってるんですけど、その光の散り方とか、構図もバランスがとれていて最高だと思います」
「……え?」
「なんていうか、すごく熱を感じるんですよね。作った人の、必死な感じ。私、この写真のファンなんです。あ、これSNSで話題の隠密おじさんですよね? おじさんも、あの人のファンなんですか?」
佐藤は呆然とした。
ネットでは一万人が騒いでいるが、目の前の彼女は、誰よりもまっすぐに俺の技術と作品に対する熱量を見てくれた。たとえ、俺を作者本人ではなく、ただのファンだと思っていても。
「……そう、ですね。あの人は、たぶん……すごく必死に、そこにいたんだと思います」
「やっぱり! なんか、孤独な戦いをしてる感じがして、応援したくなっちゃうんですよ」
松田さんは弁当を袋に入れながら、元気に「ありがとうございました!」と頭を下げた。
コンビニを出た佐藤の胸には、カチナイーヨ要塞の爆風よりも温かい何かが広がっていた。
一万人のフォロワーからのいいねよりも、目の前のたった一人から褒められた事実。
プシュッ
佐藤は、缶コーヒーのプルタブを開けた。
「……やっぱり、やめられないな」
誰に認められなくてもいい。いや、認められたい。
でも、もしあんな風に、誰かの一瞬の心を動かせるアートを作れるなら。
「松田さん。次はもっと、すごい爆発を見せてやるよ」
独り言を呟き、佐藤は四畳半へと戻っていった。
その背中には、かつて戦場を支配した傭兵の静かさと、ただの承認欲求を拗らせたおじさんの愛おしさが同居していた。
しかし、佐藤は気づいていない。
コンビニの外、暗がりに停まった黒塗りのバンの中で、アナが盗聴をしていたことに。
「……次はもっと、すごい爆発を見せてやる? ……まさか、戦術核でも使うつもりなの……!?」
佐藤のささやかな決意は、またしても最悪の方向に翻訳されていた。
どんなコンビニ店員だよ。




