第16話 アカウント凍結の危機
バズるとは、劇薬を飲むことと同じだ。
一晩で手に入れた一万人のフォロワー。しかし、その中にはファンだけでなく、通報ボタンを連打する正義の味方や、佐藤の正体を暴こうとする特定班、そして監視の目を光らせる運営が混在していた。
「……な、なんだこれ」
朝、佐藤がスマホを開くと、画面いっぱいに赤いバナーが表示されていた。
【警告:あなたのアカウントは重大な規約違反の疑いにより、現在凍結の審議中です】
「凍結……!? せっかくフォロワーが一万人を超えたのに!」
原因は明らかだった。カチナイーヨ要塞の爆破画像が、国際的なテロ行為の肯定であると判断され、AIによる自動検出に引っかかったのだ。さらに、熱狂的なアンチたちが不謹慎だ、犯罪自慢だと一斉に通報を浴びせた。
佐藤は慌てて異議申し立てのフォームを開いた。
かつて、国境警備隊の包囲網を突破した時でさえこれほど指は震えなかった。
『これはテロではありません。私はただの、爆破シーンを背景に自撮りをしたいだけのおじさんです。現場の清掃も行いましたし、世界遺産にも配慮しました。本物の爆破なんです!』
送信。
だが、数分後に返ってきたのは、無慈悲な自動返信メールだった。
『お問い合わせいただいた内容を確認しましたが、画像があまりにもリアルすぎるため、フェイクニュースによる社会不安の助長、あるいは実行犯による犯行声明と見なされます。凍結の解除は認められません』
「本物だからダメって……どういうことだよ!」
佐藤は畳を叩いた。
SNSという戦場には、俺の居場所はないのか。
その時、Xのタイムラインに、あるハッシュタグが流れてきた。
『#隠密おじさんを解放しろ』
驚いたことに、あのインフルエンサーのスゲエや、一部の熱狂的なファンたちが、佐藤の凍結に抗議の声を上げていたのだ。
『おじさんの画像はアートだろ!』
『あれだけ綺麗にアンテナだけ吹き飛ばして城を無傷にするコラ、誰が作れるんだよ!』
さらに、あの「ポエム垢」ことアナ(@poem_lonely_night)も、複雑な思いでキーボードを叩いていた。
(……凍結? 冗談じゃないわ。アカウントが消えたら、彼の足取りを追う唯一の手段が失われる。彼を野放しにするわけにはいかない……!)
彼女は諜報局の特権を使い、裏側からXのサーバーへハッキングを仕掛けた。監視対象の維持という名目で、佐藤のアカウントが消滅するのを防ぐためだ。
佐藤は知らない。
自分を守るために、一般市民と世界最強の諜報員が、図らずも共闘していることを。
「……よし、まだアカウントは生きている。凍結が本格化する前に、誰も文句を言えない圧倒的なアートを見せつけてやる」
普通に垢BAN。




