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無敵の隠密おじさん、国境を超えて爆破してきたが、Xのフォロワーは3人  作者: ゼンショー・シマァス


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第13話 Bluetoothは信用できない

 某国北部の山岳地帯。ここは一年中深い霧に覆われ、白い地獄と呼ばれている。その最深部に、軍が極秘裏に建設した物資集積所――通称ホワイト・ベースが存在した。


 最新の軍事衛星ですら見通せないこの場所に、一人の男がいた。

 佐藤である。


 彼は現在、高さ十メートルはあろうかというコンクリート壁の真下に張り付いていた。

「……よし、ここなら霧も少し晴れている。背景のタンクもよく見えるな」


 佐藤が気にしているのは、敵の赤外線センサーではない。スマートフォンの露出補正。

 今回の作戦のために、彼は三脚の代わりに、岩場に固定できるフレキシブルアーム付きのホルダーを導入していた。さらに、遠隔操作でシャッターを切れるBluetoothリモコンも左手に握りしめている。


「まず、カメラをここに設置して……角度はこう。よし、俺がこの位置に立って……」


 背後では、重武装した巡回兵の足音が近づいている。

 普通なら息を止めて隠れる場面だが、佐藤は「お疲れ様ですー」と小声で挨拶しながら、堂々とカメラの画角を調整した。


 兵士たちは一瞬立ち止まり、霧の中に立つ佐藤を見た。

「……おい、作業員か?」

「はい、カメラの点検っす。霧でレンズが曇っちゃって」

「そうか、苦労するな。さっさと終わらせろよ」


 突破。

 完璧な新人顔とコミュ力の合わせ技だ。兵士たちは、霧の中で三脚を立てている不審者を真面目な設備点検員として認識し、去っていった。


 邪魔者がいなくなったところで、佐藤は爆発物をセットした。

 今回のターゲットは、違法に集積された化学燃料タンク。これを爆破すれば、霧が七色に染まる幻想的な映像が撮れるはずだ。


「さあ、いよいよ動画デビューだ。世界を驚かせてやるぞ」


 佐藤は立ち位置に戻り、胸を張った。

 左手の指に隠したリモコンのボタンを、力強く押し込む。


(ポチッ)


 ――ズ、ドォォォォォン!!


 計算通り、背後のタンクが次々と連鎖爆発を起こした。

 霧が熱風で吹き飛ばされ、その奥からオレンジと青の炎が渦を巻いて立ち上がる。佐藤はカメラに向かって、今までにないほど自信に満ちた表情で語りかけた。


「……えー、皆さんこんにちは。無敵の隠密おじさんです。今日は、ホワイト・ベースをオレンジと青の炎でアレンジしてみました。見てください、この火力を。これが本物――」


 爆音と炎。

 その前で、一生懸命に自分の作品をアピールするおじさん。

 撮影時間は約三十秒。完璧な撮れ高だった。


 佐藤は満足げに頷くと、爆発で混乱する基地を悠々と後にした。

 そして、下山途中の安全な場所で、ワクワクしながらスマホのライブラリを開いた。


「さあ、確認だ。これで100万再生は間違いない……」


 だが、画面に表示されたのは。


【保存された動画はありません】


「……え?」


 よく見ると、カメラアプリの画面には無情なメッセージが出ていた。

『Bluetooth接続が切断されました。撮影を開始できませんでした』


「……あ」


 戦場の電波妨害か、あるいは単なる機器の相性か。

 リモコンを押した瞬間に接続が切れ、録画ボタンは一ミリも動いていなかった。

 残っていたのは、撮影直前の緊張で顔が引き攣ったおじさんの自撮り写真が一枚だけ。背景には、まだ爆発していない、ただの灰色の霧が写っているだけだった。


「……う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」


 霧の山嶺に、男の魂の叫びが木霊した。

 爆破は成功。基地は壊滅。しかし、自撮りは失敗。

 佐藤にとって、それは敗北を意味していた。


Bluetoothの接続って不安定じゃね?

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