第12話 動画なら信じてもらえるか?
「動画だ。動画しかない」
四畳半の畳の上、俺は決意を新たに拳を握った。
写真が静止した嘘だと言われるなら、時系列が連続する動く真実を突きつけてやるまでだ。爆発の瞬間、光が広がり、瓦礫が舞い、俺がその前で元気にピースをしている。これなら、どんな疑い深いネット民も認めざるを得ないだろう。
だが、ここで大きな問題が浮上した。
俺は、動画の撮り方も、ましてや編集なんて高度な技術も持っていないということだ。
「ええと……まずはアプリを入れるところからか?」
俺は慣れない手つきでアプリストアを検索した。『動画編集 初心者 簡単』といったワードで出てきたアプリをダウンロードしてみる。
画面には、キラキラしたエフェクトや、お洒落なフォントが並んでいる。
「テロップ……カット……BGM……? なんだ、爆発物を作るより複雑じゃないか」
かつて戦場で、数秒の誤差も許されない時限爆弾の回路を組み替えた俺の指先が、スマートフォンの画面上で迷子になっていた。
文字を入れようとすれば指が太すぎて変な位置に配置され、音楽をつけようとすれば、なぜか陽気なサンバのリズムが流れてしまう。
「違う、これじゃない。俺が求めているのは、もっとこう……戦場の緊迫感と、俺の存在感の融合なんだ」
格闘すること数時間。
結局、俺は編集を諦めた。
最高の素材は変に加工しない方が輝く、もっともらしい言い訳を自分に言い聞かせ、次は自撮り動画を撮るための機材を揃えることにした。
最新のウェアラブルカメラ。頭や胸に固定すれば、俺の視界そのものが映像になる。
だが、それだと俺の顔が映らない。
俺が求めているのは誰かの映像ではなく、自撮り感のある映像なのだ。
「となると、三脚を立てて、定点観測風にするしかないか……」
俺は再び地図を広げた。
次なるターゲットは、これまた不穏な動きを見せている某国の山間部に隠された軍事物資集積所。
深い霧に包まれたその場所は、衛星からも捕捉しにくい難攻不落の要塞と言われている。
だが、そんなことはどうでもいい。
俺が気にしたのは、その場所の日照条件だった。
「霧が出やすいってことは、光の加減が難しいな。あまり暗すぎると、また加工だなんだのと言われる。あえて逆光で撮って、俺のシルエットを際立たせるべきか?」
もはや俺は、傭兵というよりは光の魔術師と化していた。
その頃。
某国の情報分析局。
一人の女性諜報員が、暗い部屋でモニターを見つめていた。
画面に映っているのは、佐藤がカチナイーヨ要塞で撮影した、あの七色爆破の画像だ。
「……信じられない。この爆破、完璧だわ。でも、この手前に映っている男は何? どこをどう分析しても、ただの疲れた中年男性にしか見えない。……まさか、これはカモフラージュ?」
彼女のアカウント名は【@poem_lonely_night】。
佐藤の唯一の心の支えである「ポエム垢」の正体は、世界最強の分析官だった。
彼女は、佐藤が何気なくポストした『次は動画です』という一言を見逃さなかった。
「……こいつが本物なのか。それともただの妄想垢なのか。見極めさせてもらうわよ、おじさん」
佐藤の承認欲求は、本人の知らないところで、世界の諜報戦の最前線へと引きずり出されようとしていた。
承認欲求足りてますか?




