第11話 小さな反応
成田空港から自宅へ向かう京成スカイライナーの車内。俺は震える手でスマホを握りしめていた。
画面には、海外メディアのニュースサイトが並んでいる。
『衝撃:カチナイーヨ要塞で謎の爆破。軍事設備のみが消失、城壁は無傷』
『専門家「未知のテクノロジーか」。歴史的遺産から不法なアンテナ群が消え、ユネスコは歓喜の声明』
『各国の情報機関が動揺。ステルス能力とピンポイント爆破を併せ持つ新型兵器を示唆』
ニュースのコメント欄は、世界中の言語で驚嘆の声が溢れていた。
「これは神の仕業だ」「いや、宇宙人の仕業に違いない」「あまりに美しい爆破だ、これはアートだ」
「……そうだよ。アートなんだよ。見てくれよ、そのアートの真ん中に俺がいるだろ」
俺は自分のポストに戻った。
インプレッションは『52』。いいねは『3』。
誰一人として、この世界を揺るがしている爆破事件と、画面の中で黄昏ている俺を結びつけていない。
それどころか、俺の画像の下にはこんな引用リポストがついていた。
『新作スマホゲーの広告かな? 最近のCGはリアルだけど、おっさんを主人公にするセンスは謎だろ。もっと可愛い女の子にしろよ』
「……広告じゃない。俺だ」
四畳半のアパートに戻った俺は、電気もつけずに畳に転がった。
世界遺産を守り抜き、敵対国の軍事拠点を無力化した。歴史に刻まれるレベルの偉業だ。
なのに、俺の手元に残ったのは、遠征で使い果たした貯金残高3,241円と、誰にも届かなかった承認欲求の残骸だけ。
ふと、テレビをつけると、日本のニュース番組がこの件を報じていた。
「……今回の爆破について、ネット上では名もなき英雄を称える声が上がっていますが、犯人の足取りは全く掴めておりません。現場には犯人の遺留品すら一つも残されておらず――」
「……もう、爆破じゃダメなのか?」
暗い部屋で、スマホの青白い光が俺の顔を照らす。
これだけやってもバズらない。これだけ命を懸けてもコラか広告扱い。
俺は、あまりの虚しさに少しだけ涙が出た。
その時。
Xの通知音が鳴った。
いつものスパムか。そう思って画面を見ると、そこには意外な言葉が並んでいた。
【@poem_lonely_night(毎日ポエムを呟く謎の匿名垢)】
『……今回の写真、光の使い方がすごく綺麗ですね。アート作品みたい』
初めての、人間味のある感想。
「いいね」の数よりも重い、たった一行の言葉。
「……見てる奴は、いるんだな」
佐藤の瞳に、小さな火が灯る。
たとえフォロワーが少なくても。
俺の仕事を綺麗と言ってくれる奴が、この空の下に一人でもいるのなら。
「次は……動画だ。加工だなんて言わせない、圧倒的な臨場感を見せてやる」
だが佐藤は気づいていない。
彼が「ポエム垢」だと思っているそのフォロワーの正体が、実は彼の動向を唯一察知し始めた、某国の凄腕諜報員であることを。
某国の諜報員ってワードで、ご飯食えるわ。




