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無敵の隠密おじさん、国境を超えて爆破してきたが、Xのフォロワーは3人  作者: ゼンショー・シマァス


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第10話 SDGsなアーティスト

 軍の食堂で豆料理を完食した俺は、食後のコーヒーまで啜りながら、まったりとした時間を過ごしていた。

 周囲には、先ほど俺を検問で通してくれた兵士や、食堂で席を譲ってくれた将校たちが座っている。だが、不思議なことが起こる。


 隣の席の兵士が、俺の顔を見て首を傾げた。

「……お前、誰だっけ? さっきもここにいたか?」

「あ、さっき検問で煙草をあげたじゃないですか」

「煙草……? ああ、そういえばそんな奴もいたような……」


 彼はすぐに興味を失い、また同僚との雑談に戻っていった。

 これが俺の能力『新人顔』の恐ろしい側面だ。

 初めて会う時は誰からも新人として受け入れられるが、存在感が希薄すぎるため、二度目に会う頃には記憶から消えかかっている。


 悲しいが、潜入者としてはこれ以上の才能はない。

 俺は空になったカップを片付け、夜の帳が下りた要塞の屋上へと向かった。


 さて、ここからがプロの腕の見せ所だ。

 俺の目的はあくまで映える自撮りであって、歴史的な遺産を壊すことじゃない。ユネスコに本気で怒られたら怖いし、何より美しい城が消えては元も子もない。


 俺は仕掛けた爆弾の最終チェックを行った。

 設置場所は、古城の石壁ではない。軍が後付けで設置した鋼鉄製のアンテナ架台や、コンクリートの増設監視塔だけを狙い撃つように指向性を持たせてある。

 火薬量も緻密に計算した。軍の違法な設備だけを綺麗に剥がし、城本体には煤すら残さない。

 さらに、表面には熱シールド用の特殊ジェルを塗布。爆発の瞬間、城の石材を守りつつ、光だけを反射させるという、図工レベルを超越した謎技術だ。抜かりないぞ。


「よし、城の保護は完璧だ。あとは、月が一番いい位置に来るのを待つだけだな」


 俺は要塞から少し離れた対岸の崖へと移動した。

 見上げれば、満月。

 銀色の光に縁取られた古城のシルエット。今、そこにある無骨な鉄塔たちが消えれば、本来の美しさが蘇るはずだ。


「今夜の俺は、ただの爆破師じゃない。SDGsなアーティストだ」つか、SDGsの意味はわからんけど。


 俺はスマホを三脚にセットした。

 爆破スイッチのタイマーを起動。10秒。


 10、9、8……。

 崖の端に立ち、月を背負ってポーズを決めた。少し物憂げに遠くを見つめる黄昏スタイルだ。


 3、2、1。


 ――シュ、ドォォォォォォン!!


 次の瞬間、カチナイーヨ要塞にへばりついていた軍の設備だけが、鮮やかな色を伴って吹き飛んだ。

 エメラルドグリーン、パープル、コバルトブルー。

 虹色の閃光が、軍用アンテナを飲み込み、飴細工のように溶かす。後に現れたのは、そのままの古城の姿だった。


 カシャッ、カシャッ、カシャッ!


 連写されるシャッター音。

 そこには、歴史的な古城が幻想的な光に包まれ、その手前で哀愁を漂わせるおじさんの姿が、一枚の絵画のように収まっていた。

 城の石一つ傷つけず、邪魔な軍事拠点だけを芸術的に消し去る。これこそが、俺が誇る無駄な技術の結晶だ。


 俺は満足感に浸りながら、混乱に陥る軍を後にした。

 帰りの飛行機の中で、その画像をポストした。


【無敵の隠密おじさん:@lonely_shadow_45】

『カチナイーヨ要塞をクリーニング。歴史が輝きを取り戻しました。 #カチナイーヨ要塞 #世界遺産に優しい爆破 #映え』


 投稿完了。

 だが、その数時間後。

 日本に到着してスマホを起動した俺を待っていたのは、再び絶望という名の2文字だった。


【0件のリポスト 2件のいいね インプレッション:45】


「……なんでだよぉぉぉ!!」


 成田空港のロビーで、俺の叫びが虚しく響き渡った。


コンプラって大事。

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