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無敵の隠密おじさん、国境を超えて爆破してきたが、Xのフォロワーは3人  作者: ゼンショー・シマァス


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第01話 渾身の爆破自撮りと、鳴らない通知

 四畳半、古い畳とタバコの混じった匂い。

 深夜二時、液晶画面の明かりだけが、俺――佐藤(四十五歳)の顔を青白く照らしている。


「……おかしい」


 思わず独り言が漏れた。

 俺が握りしめているスマートフォンの中。そこには、SNSアプリ『X』の投稿画面が開かれている。


【無敵の隠密おじさん:@lonely_shadow_45】

『ちょっと近所の基地まで散歩。花火が綺麗でした! #爆破 #自撮り #夜景』


 添えられた画像は、我ながら傑作だった。

 漆黒の闇の中、背後で巨大な燃料貯蔵庫がオレンジ色の火柱を上げ、衝撃波でひしゃげた鉄骨が芸術的な放物線を描いている。その爆炎をバックに、俺は無表情でピースサインを決めていた。

 合成ではない。加工でもない。つい数時間前、実際に国境を越え、某国の軍事基地のど真ん中に特製の仕掛けを施してきた結果だ。


 だが、投稿から一時間が経過した現在の数字は。


【1件のリポスト 0件のいいね インプレッション:12】


 フォロワーは3人。


「少なすぎるだろ……。これ、戦争レベルの爆破だぞ?」


 唯一ついた反応リプライを確認する。期待に胸を膨らませてタップしたが、現実は非情だった。


『はいはいAI生成乙。こんな画像撮れるわけねぇよ』


 ――本物だよ!

 なんなら熱風で眉毛がちょっと焦げたわ!めっちゃ努力したわ!

 叫びたい衝動を抑え、俺は力なく畳の上に大の字になった。


 三日前に遡る。


 俺には、昔から存在感というものがなかった。

 学生時代、クラス集合写真では高確率で誰かの影に隠れるか、目をつぶっている。卒業アルバムに至っては、俺の個人写真の枠がなぜか消されていた。教師すら俺がいたことを忘れていたらしい。


 そんな俺が生きる術を見つけたのは、二十代の頃。ふらりと日本を飛び出し、流れ着いた異国の地で、金で雇われる兵士――傭兵になった時だった。


 戦場は、俺にとって天国だった。

 弾丸が飛び交う最前線。そこで俺は、誰にも気づかれることなく歩くことができた。

目の前を通り過ぎても、敵兵は俺を全く認識しない。

 

 特別な魔法があるわけじゃない。ただひたすらに、自分がその場にいるはずのない存在だと確信して動くだけだ。・・・ただ結構、度胸が必要だ。弾が当たれば死ぬ。怪我も沢山した。


 戦果は、まぁまぁだったと思う。

 有名になることはなかった。なぜなら、俺が壊した施設は原因不明の事故として処理され、俺が仕留めた標的は心不全か不慮の死として記録されたからだ。

 傭兵仲間の間でも、俺の名前を知る者はいない。ただ、どんな地獄からも必ず生還する影の薄い奴がいたという噂だけが、薄っすらと残り、フワリと消えていった。


 そして四十五歳。

 日本に帰り、警備員のバイトで食い繋ぐ日々。

 四畳半のボロアパートで、俺はふと思ったのだ。


「誰かに、認めてもらいたい」


 YouTubeで何百万回も再生される若者。Xで数万のいいねを稼ぎ、ちやほやされるインフルエンサー。

 命を賭けて戦場を這いずり回ってきた俺と、スマホ一台で世界を揺らす彼ら。

 どちらが上かなんて興味はない。ただ、俺もここにいるぞという証拠が欲しかった。


 俺にできることは何か?

 トーク術はない。ダンスも踊れない。演奏や歌も無理。

 あるのは、誰にも見つからずにどこへでも行き、正確に物を爆破する技術だけだ。


 眼を閉じて考える。


「よし。爆破シーンを背景に自撮りして投稿しよう。それなら、少しはバズるだろ」


 ちょうどテレビのニュースが、某国からのミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)に着弾したと騒ぎ立てていた。

「撃ってくるなら、お返しに行っても怒られないよな」

 罪悪感は体に悪いから、嬉しいニュース。吉報だった。


 俺は押し入れから、使い古したバックパックを取り出した。善は急げだ。


 。


ご一読ありがとうございます。本日、この後22時まで7話一挙更新します。

最終的に全30話まで継続投稿しますので、気になる方はブックマークよろしくお願いします。

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