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【超短編小説】さかな天国

掲載日:2025/12/27

 閉店間際のスーパーは値引き品を求める回遊魚たちの群れで混雑していた。

 おれもその真っ只中、95%オフの金目鯛を手に持ってこの魚をどう活用するか悩んでいた。

 妻はそんなおれを見るなり、そんなものは早く棚に戻せと言った。

「どうせ煮付けにするんでしょう」


 金目鯛の煮付け、それの何が不満なのか。

 刺身は無理だもしても、捨て値の様な値段で金目鯛の煮付けを食べられる方が良いでは無いか。

 おれは唇を尖らせてその旨を伝えたが、妻は鼻で嗤うとおれの手から金目鯛のパックを取り上げて棚に戻してしまった。

「あなたはすぐに爆発させる癖があるから」


 確かにおれは、いまにもスーパーの陳列棚に並ぶ色とりどりのお勤め魚介類を爆発させようとしていた。

 何なら客さえも爆発させて、その肉片が陳列棚に降り積もるのを見て気を紛らわせようとすらしていたが、先にそう言われてしまうと立つ瀬が無い。

 おれは素直に妻に従う事にした。

「アイスを買ってあげるから」


 微笑む妻を見て、それならやはり95%オフになった金目鯛を買った方が安いでは無いかと言いかけて口を噤んだ。

 そうだ、冷蔵庫にスペースが無いのだ。

 ぎっちりと詰まった冷蔵庫を思い出す。

「あら、ちょっと」

 妻はおれの額に手を伸ばして、生え際の辺りを爪でかりかりと搔く。

 するとおれの顔面の皮は上半分がぺろりと剥がれてしまった。もうそんな季節になったんだろうか。

「少し黄色いわね」


 妻はそう言うと皮を元に戻して押しつけるように指で押さえた。まだ無理に脱皮させることも無いようだ。

 おれは戻された皮膚を撫でながら冷蔵庫の中を思い出していた。何がそんなに詰まっていたか思い出せない。

 そもそも昨夜は何を食べたんだっけ?妻はなにを作ってくれたのか?おれは残したっけ?

 なにも分からない……おれはそれから全てを爆発させた。


「ほらね」

 爆発した妻の肉片が言う。

 全くその通りだ、おれの肉片が答える。

 爆散した妻やおれ、他の客だとかお勤め品が渾然一体となる。

 それでも妻は妻だ。おれには分かる。

 振動しながら低く唸る保冷陳列棚の中でおれと妻は重なり合っているが、手に取るものはいない。

 なぜなら全員が爆発しているからだ。


 やがて意識が遠ざかり、妻が買ってくれると言ったアイスはどれにするべきだったかを考えながら、その魅惑的な群青色の中に、意識は溶けて散った。

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