流れる時、過労、そしてミス
時は流れ、千年。
人の文明は変わり、魔王も勇者も、神の奇跡も、ひとつの伝承となっていた。
だが、世界のどこかにはまだ――管理画面が存在していた。
その中心に座る男の目は、深い隈を宿していた。
白髪混じりの黒髪。
机の上には終わらないログと、冷めたカップ。
男の名は、アパン。
「……はぁ。魔法体系の自動最適化、またループしてるな……。この世界、いつになったら安定するんだか」
そう思いながらアリアの席を見る。
そこにアリアの姿は、ない。
女神アリアは、数百年前に神気を使い果たし、長期休眠モードに入っていた。
アパンは彼女の代行として、ひとりでこの世界を回している。
世界の気候、魔力バランス、魂の循環。
全ての処理ログが彼の画面に流れ続ける。
【タスク数:14,573,222】
【エラー:軽微】
【管理者:アパン】
「……軽微の数が多すぎるんだよな」
呟いて、また一口コーヒーを飲む。
冷めきっていた。
それでも、彼は笑った。
「ブラックは俺の人生仕様か……しゃーねぇな」
モニターの隅に、かつてのアリアの笑顔が映る。
――眠る前に録画されたメッセージだ。
『アパンさん、無理しないでくださいね。神様の仕事は、ちゃんとサボるのも大事ですよ?』
「……できてねえじゃん。結果擦り切れてお前、寝っぱなしじゃねぇか。説得力ゼロだよ。さて……今日のお客さんは……お、久々に外の世界からの転生者か」
ふわっとした光が机の前に浮き上がったかと思うと、そこには中学生くらいの少女。
「え?あれ……私」
事態を呑み込めないといった少女を尻目にテンプレートの口上を述べる。
「あなたは死にました。異世界転生の担当、アパンです。死因、いじめによる外傷性ショック死。……うん。特典希望:チート。はいはい」
可愛そうな子だ。世にあふれている悲劇、世にあふれている死因の一つだが、そのとき俺は疲れすぎてその少女の姿がなぜかアリアと重なって見えてしまっていた。
ちょっとくらい転生得点をおまけしてあげるか。
そう思いながら手慣れた手つきで久々の転生処理を実行する。
ひさびさの転生処理ーーーはいポチポチーのほい。実行。
二段階承認をアリアの代わりに実行! ヨシ!
「あの……」
「あー、君の目の前にポップアップウィンドウが出たでしょ?そこのYを押してね」
「……いいんですか?」
いいよいいよ、早く押して。ちょっと今日は早く仕事を終わらせて早めに寝たい。
「じゃあ…えいっ!」
ビー!ビー!
あん?なんかエラー音が?なんだろ。アリアの承認俺が押したからか?
まぁいいや「Y」っと。
【administrator:APAN】→【Access transferring...】
『権限移譲に伴い、一時対象神格を再起動します』
え???
あ……!
やっべ!!!!!!間違えて転生者にアドミン権限つけちゃった!!!
彼女もアパンのような人生をたどるのかは、まだわからない。




