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11.ローズ・マリー

 王立警察のカルロスへの取り調べにより、孤児院の運営費の横領、イグナリエル神の偽物の像の販売、その他にも余罪が次から次へと出てきた。


 カルロスが犯行を重ねたのは、生い立ちが原因らしい。カルロスはミルズ子爵の私生児だった。ミルズ子爵と侍女リディアとの間に生まれた私生児を、ミルズ子爵夫人が追い出した。夫人に自分もミルズ子爵家を追い出されるのではないか、とカルロスは恐れた。

 ローズとの結婚前にミルズ子爵家を追い出されると、カルロスは貴族としての地位を失う。ミルズ子爵家に依存しない経済基盤を作ること、それがカルロスの犯行動機だった。

 カルロスが逮捕されたことで、ローズとの婚約は白紙となった。


**


 ローズとマリーは占星術師が指定した場所を訪れた。


「戻れなかったら、どうしましょうか?」

「入れ替わった生活を続けることになりますね」


 マリーは頭をかいた。この一か月、貴族としての生活が辛かった。できるなら、すぐにでも平民に戻りたい。


「死ぬかもしれません。怖くありませんか?」


 ローズは髪を触る。落ち着かないときの癖。真面目で無鉄砲で怖がり屋のローズ。そのしぐさを見ていたら、笑顔が自然にこぼれた。


「怖いなら、手を握っていましょうか?」


 ローズの手を取った。ローズの指先の力が緩んでいくのが分かる。


「ねえ、私の裸を見ましたよね?」

「入れ替わったのだから、お互いさまですよ」


 ローズにじっと見られて、目をそらした。

 建物がぐにゃりと曲がった。そろそろ時間だ。ローズが歪んで見える。


「伯爵令嬢は、夫以外に裸を見せてはいけません。だから、責任をとってもらいます」

「えっ?」


 地面が揺れる。目を閉じたら、唇に柔らかいものが触れた。

 温かい、ずっとこのままならいいのに。



 ◆◆



「お父様?」


 ローズは手に持っていた袋を落とした。

 安宿の喫茶スペースにはローズの父、トリスタン伯爵が座っていた。


「ローズ……ローズなんだね?」


 トリスタン伯爵の目の縁がじんわりと赤くなる。次第に目の中に光るものが溢れ、こぼれそうに溜まった。


「帰らないわよ。私はこの人と生きていきます」


 ローズはトリスタン伯爵をじっと見たまま、髪を触った。


「戻ってきてくれないか。結婚を認める」

「えっ?」


 ローズは拾いなおした袋を、もう一度落とした。


「だから、アルバートとの結婚を認める。まさか、出ていくとは思わなかった」

「だって、結婚は認めない、って言いましたよね?」

「いや、あれは何というか……急に結婚したいと言われてもな」


 ローズは腕を組んでじっと黙っている。


「ただし、アルバートがトリスタン伯爵家に入ること。これが条件だ」

「花言葉は『変わらぬ愛』、いいと思うのだけれど」

「いや、そういうことじゃなくて……トリスタン伯爵家を潰すわけにいかないだろう。それに、婿養子の件は、父のダリルも承知している。弟のマルコを跡取りにするそうだ」


 ローズは眉をひそめた。


「アルバートは平民です。貴族の婿養子として相応しくないのでは?」

「それも問題ない。イグナリエル神の偽物の像が拡散するのを防いだ功績が、メイザース王の耳に入った。王はアルバートに騎士爵を与えるそうだ。君もローズを説得してくれないか?」


 トリスタン伯爵はアルバートにすがるような視線を送る。


「僕はローズと一緒なら、トリスタンでもマリーでも、どちらでもいいです。あっ、プレタポルテの店をやりたいですね」

「もちろんだ! もう、準備してあるぞ」


 仕事のできるトリスタン伯爵に、外堀が埋められていく。あれだけ逃げ出したかった貴族の生活なのに、嫌な気はしない。


 アルバートは愛想笑いを浮かべながら、机の手紙を見た。


『アルバートを愛しているので、出ていきます ローズ・マリー』


<了>

この物語はこれで終わりです。最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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