8話✴︎卵が魔力を吸う
禁域を出た一行は、サマール王宮の一室を借りて竜の卵の保護と観察にあたっていた。
静かな室内。厚手の布に包まれた銀灰色の卵が、微かな鼓動のように時折震えている。
まるで何かを求めるように、じっと手のひらを差し出す者を見つめているかのようだった。
「また……」
クラウディアがそっと手をかざすと、卵の表面が淡く光を帯びる。
「……吸っていますね…魔力を」
フィンが小さく頷いた。「しかしお嬢様…あんまり消耗していないようですね。…やはり適性あるのかもしれませんね。」
「うーん、慣れたって感じかも。なんだか、少しずつ馴染んでいってる気がするの」
アレクが「じゃあ俺もちょっと」と手を伸ばすと――
「っ……!」
触れた瞬間、彼の身体から蒼い光が吸い取られるように流れ出す。
卵が光を帯び、内側から脈打つような音が響いた。
「おいアレク、大丈夫か!?」
「……へ、平気……いや、ちょっと目が……回る……」
「下がって!」セレナが支えながらアレクを引き寄せた。
「試してみるね」
今度はセレナが卵にそっと手を添えた。
だが、次の瞬間、彼女の銀の髪がゆらめき、魔力が雪のように吸い込まれていく。
セレナの足元がふらついた。
「……なるほど。これは、適性というより、“卵が選んでいる”のね」
クラウディアが卵を抱き直すと、吸われていた光が穏やかに落ち着いた。
フィンが額の汗を拭って言う。
「つまり、無理に与えようとすれば力を奪われるけど、クラウディアと……俺には“受け取る準備ができてる”ってことか」
アゼル王はその様子を静かに見守りながら言った。
「竜の卵は、親の魔力に近いものを選ぶという。
クラウディア、君は卵にとって“適した源”なのだろう。
だが、その負担を一人で抱えさせるわけにはいかない。フィンが交互に支える形ならば、王家としても異論はない」
王妃も小さく頷く。
「この命を守る責任は、あなた方だけではなく、我々皆にあります。
どうか、遠慮なく協力を求めてくださいね」
クラウディアは深く頭を下げた。
「ありがとうございます。……この子が無事に生まれるように、私たちもできることを尽くします」
アレクが肩をすくめながら言った。
「それにしても、あの吸われ方……けっこうえげつなかったぞ……。
まさか命の気配って、あんなに“貪欲”なもんなんだな」
セレナは微笑んだ。
「生きようとする力は、時に怖いほど強いのよ。それが命ってもの」
窓の外では、サマールの空に金色の夕陽が沈もうとしていた。
クラウディアはそっと卵を抱きしめながら、そのぬくもりを胸に感じていた。
それはまだ命として目覚めぬ“静かな鼓動”だった。
けれど確かに、彼女たちの魔力を通じて、命の炎は少しずつ膨らんでいた。




