21✴︎まずは視察
クラウディアはしばらく地図を見つめていた。
胸の奥のざわつきは消えない。
レオンハルトが、穏やかだが芯のある声で問いかける。
「クラウディア。……お前はどうしたい?」
クラウディアは静かに息を吐き、みんなに視線を向けた。
「……行ってみたいと思う。ただ、何かを“解決しに”じゃなくて……まずは“見に行く”。それだけ」
アレクが目を瞬かせる。
「視察、ってことか?」
「そう。根拠は薄いけど…放っておくには気になる。でも大げさじゃなくていい。確認しに行くだけ」
フィンが微笑む。
「クラウディア様らしいお考えです。慎重でありながら、目を背けない」
セレナは窓を少し開け、吹き込む風を感じとる。
「賛成よ。音の乱れが海から来てるなら……
私にも分かることが増えるかもしれないしね」
そのとき、ルーファスが地図の端を押さえながら口を開いた。
「南方の街道は、クラウディアが開拓した村のおかげでだいぶ通行が安定してきている。……だからこそ、“視察”という名目も通りやすい。王宮への報告も、後から整えれば問題はないだろう」
兄らしい落ち着いた声。
しかしその瞳には、家族としての心配がにじむ。
「ただし——妹を危険地帯へ送り出す兄として言わせてもらう。護衛は万全にしろ。そして……危険だと感じたら、迷わず戻れ。いいな?」
クラウディアは少し苦笑しつつ、素直に頷いた。
「わかってる。今回は“冒険”じゃなくて、本当に視察だけだから」
アレクがノクティスの頭を撫でながら笑い出す。
「ほら、ノクティスまで行く気満々みたいだぞ」
ノクティスは尻尾をぱたぱた揺らし、
クラウディアの足元に体を預けるように喉を鳴らした。
ニブル・アドゥムは窓の外から覗き、重々しい声で言う。
「行くのは悪手ではない。
揺らぎは、確かに海の底にある。だが——」
ほんの僅か、言葉を濁す。
「深淵には、竜でさえ簡単には近づかぬ。
——決して油断するな」
クラウディアは、みんなの顔を一人ひとり見渡し、
その視線が温かく支えてくれているのを感じた。
そして静かに、しかし確固たる声で告げる。
「……じゃあ決まりね。
まずは南方へ——視察の旅に出ましょう」
家族も、仲間も、誰も反対しない。
むしろ自然に、クラウディアの決断を支えるように頷いていた。
ノクティスが小さく鳴く。
まるで、“行こう”と言わんばかりに。
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こうして、
まだ何も知らないまま——
クラウディアたちは南方への旅へと踏み出していく。




