18話✴︎すっかり溶け込むノクティス
朝の光が射し込むアーリントン侯爵邸の庭。
そこは、すでにノクティスの遊び場になっていた。芝生の上でころんと転がった幼竜は、クラウディアの影を追いかけて尻尾をぱたぱたと振る。
「おはよう、ノクティス」
クラウディアが手を伸ばすと、ノクティスは小さな鳴き声をあげて顔をすり寄せる。その姿にフィンが静かに口元を緩めた。
「クラウディア様……完全に懐かれておりますね」
「ええ、もう立派な家族よ」
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昼下がり。
縁側に腰掛けたセリーヌは、ノクティスの首筋を撫でながら穏やかに笑っていた。竜は目を細め、まるで大きな猫のように喉を鳴らす。
「こんなに心を開くなんて……やっぱり、あなたの子ね、クラウディア」
シリルは訓練場にノクティスを連れ込み、木剣を振りかざしていた。
「これは敵だぞ、ノクティス!」
首を傾げた幼竜が、小さく火花を散らすと、シリルは腹を抱えて笑う。
「ははっ!そうだ、その調子だ!」
ルーファスは書斎にこもり、羽根ペンを走らせていた。
「……日ごとの摂取魔力量、睡眠時間、感情の揺らぎ……これは記録に残すべきだな」
机に向かう姿は学者そのもので、隣ではフィンが覗き込みながら助言をしていた。
「昨日よりも魔力の吸収効率が上がっているようですね。……食事のあとに元気になるのは、魔力の流れと関係しているのかもしれません」
「なるほど……なら、次は血筋と系統別の比較も調べよう」
「でしたら、研究室を専用に設けてはどうでしょう?この子のための、安心できる空間を」
二人の会話は、すでに立派な共同研究の打ち合わせに近いものだった。
クラウディアが呆れ混じりに微笑むと、フィンがすぐに頭を下げた。
「……クラウディア様をお守りする身でありながら、つい熱中してしまいました」
「いいのよ。あなたたちが本気で考えてくれるのは、きっとノクティスも嬉しいはずだから」
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夜。
屋敷が静まる頃、庭の池のほとりでノクティスは丸くなり、夢を見るように静かに眠る。その身から流れ出る闇の魔力は柔らかく、まるで結界のように屋敷全体を包み込んでいた。
クラウディアはその光景を見つめながら思う。
――この子は、私たちの家族であり、アーリントンを守る新しい力。
闇は恐怖ではなく、安心をもたらすものになれるのだと。




