17話✴︎アーリントン家とノクティス
アーリントン邸の広い中庭に、陽光が降り注いでいた。
クラウディアが抱くノクティスは、まだ翼も小さく、ひよこじみた鳴き声を上げている。
最初に近づいたのは、屈強な父レオンハルトだった。
巨体をかがめ、皺の刻まれた手でそっとノクティスの額を撫でる。
「……竜を敵として剣を振るったこの手で、こうして幼子を撫でる日が来るとはな」
その声は驚くほど柔らかかった。
ノクティスはくすぐったそうに鼻を鳴らし、ぺたりと父の胸に顔を押しつける。
レオンハルトの険しい顔が、わずかに綻んだ。
――
次に進み出たのは母セリーヌ。
ドレスの裾を揺らしながら、彼女は花を手にしていた。
「この子も、お花の香りは好きかしら?」
差し出された花を興味深そうに嗅ぎ、ノクティスは小さく「クルル」と鳴いた。
セリーヌは目を細め、慈愛に満ちた笑みを浮かべる。
「かわいいわねぇ……クラウディア、あなたが子どもの頃を思い出すわ」
――
兄のシリルは腕を組んで少し離れた場所から見ていたが、やがて観念したように近づいた。
「ふん……兵を鼓舞するには、こういう存在も悪くないかもしれん」
そう言いつつ、指先を差し出すと、ノクティスは嬉しそうに噛みつこうとする。
「おいおい、牙はまだ小さいとはいえ、力はあるな……!」
不覚にも顔がほころび、シリルは撫で方を探りながら、すぐに夢中になっていた。
――
最後に歩み寄ったのはルーファスだった。
眼鏡を押し上げ、慎重に距離を測りながら観察している。
「魔力の脈動……なるほど、吸収と循環が同時に起きている。クラウディア、観測用の水晶は?」
クラウディアが頷くと、ルーファスは記録を取り始めた。
しかしノクティスは退屈そうに尻尾をぱたぱたさせると、ルーファスの腕に乗り、インクの染みた袖を引っ張った。
「こら……研究に支障が……いや、少しだけなら」
彼は観念したように撫でると、ノクティスは満足げに目を細めた。
――
こうしてアーリントン家の人々は、それぞれの形でノクティスと触れ合った。
戦いと誇りに生きてきた家に、新たに芽吹いた命。
その小さな鼓動は、確かに家族の心を和ませ、結びつきを深めていった。




