16話✴︎研究
アーリントン邸の裏庭に建てられた小さな石造りの建物。
窓から差し込む光に照らされ、机の上には羊皮紙や魔導器具、そしてノクティスのために用意された魔力測定具が並んでいる。
「……ふむ。昨日よりも魔力の吸収効率が上がっていますね。やはりクラウディア様との相性は突出しているようです」
ペンを走らせるフィンの声は真剣そのもの。
彼は研究ノートを細かくつけ、卵の状態からノクティスの食事(魔力摂取)のリズムまで記録していた。
クラウディアは机の反対側で、ノクティスの首元を撫でながら小さく微笑んだ。
「フィンがいてくれるから安心だわ。私ひとりでは到底ここまで管理できない」
その言葉に、フィンは手を止め、少しだけ照れたように背筋を伸ばす。
「恐れ入ります。ですが、当然の務めです。クラウディア様とノクティスの安全を守ることが、私に与えられた役目ですから」
クラウディアだけでなく侯爵含めみんなからノクティスに様付けはいらないだろう。むしろフィンは保護者の1人だよと笑われたため、フィンもノクティスと呼ぶようになった。
外からは、アレクが笑いながら木材を運ぶ声や、セレナが庭で風を使って乾燥を早めている声が聞こえてくる。研究所は家族と仲間たちの協力で、少しずつ形になっていた。
クラウディアはふと、ノートを覗き込んだ。細かい文字でびっしりと埋められている。
「……本当に几帳面ね。これじゃあまるで王宮の研究員だわ」
フィンは苦笑する。
「いいえ、私はただの従者です。けれど……クラウディア様の役に立てることが、何よりの喜びですから」
クラウディアは特に深い意味もなく頷く。
「そう。なら、これからもお願いするわね」
その瞬間、ノクティスが大きな声で鳴き、二人の会話を遮った。
フィンは慌てて魔力測定具を動かしながら記録をとり、クラウディアは笑いを含んでノクティスを抱き上げる。
……その空間は、研究所であると同時に、彼らの日常の一部になっていった。
冷たい石壁に囲まれた場所に、不思議なほど温かい空気が流れていた




