15話✴︎より学ぶ
アーリントン邸の一角――陽当たりの良い庭園に、木製の柵で囲われた一画が設けられた。そこには小さな池と砂場、石組みの寝床が整えられ、まるで竜用の温室のようだ。
ここが、ノクティスの新しい「遊び場」であった。
クラウディアが木陰の椅子に腰を下ろすと、幼竜ノクティスは翼をぱたぱたさせながら膝の上に乗りたがる。
「もう……重くなってきたのよ?」
「くぅん……」と甘える声を出され、クラウディアは結局両腕で抱き上げてしまう。
すかさず横で控えていたフィンが、手帳にさらさらと書き込みながら言った。
「……クラウディア様、ノクティス様の体重増加は順調です。魔力の吸収量と比例して、成長も加速しているようですね」
「様なんてつけなくていいのよ」
クラウディアが呆れ気味に言うが、フィンは首を横に振った。
「いえ。未来の竜であれば、敬意は払うべきかと」
その横では、アレクが木材を組んで新しい止まり木を作っている。
「こいつ、そのうち空飛ぶんだろ? なら、翼鍛える場所も作ってやらないとな」
セレナは池の水に手をかざし、小さな風と水の魔法で水面をくるくる回していた。
ノクティスはすぐに目を輝かせて飛び込もうとするが――クラウディアの膝から離れない。
「……ほんとに、離れないわね」
「クラウディア様が“母”だと認識しているのでしょう」フィンが笑みを浮かべる。
「それは……ちょっと困るけど」
そう言いつつも、クラウディアの声はどこか嬉しそうだった。
やがてニブルが姿を見せ、庭の端から静かに見守る。
「人の暮らしの中で育てる竜……珍しい光景だ。だが、悪くない」
フィンは真剣な眼差しで彼を見上げた。
「ノクティス様の成長に必要な知識を、ぜひもっと教えていただきたいのです。研究記録を整理し、専用の部屋を設けようと考えています」
「研究所……?」クラウディアが驚いて問い返すと、フィンは頷いた。
「はい。ノクティス様を健やかに育てるためにも、環境を整え、観察と記録を続けることが重要です。……もちろん、護衛の任も忘れません」
クラウディアは少し黙り込んだ後、柔らかく微笑んだ。
「……ありがとう。フィン、あなたがいてくれて心強いわ」
ノクティスはその声に応えるように、小さな翼をぱたぱたさせ、クラウディアの胸に顔を埋める。
その姿に、庭にいた誰もが思わず目を細めた。
――戦乱を潜り抜けた彼らの新しい日常は、確かにここから始まっていた。




