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「駄目だ!………………どう考えたって可怪しい。どうして今更戻りたい!?ちゃんと理由を言え!!」


やはり理解出来なくて、退屈そうに指先で前髪をもて遊んでいる男にもう一度同じ質問をぶつける。



「しつけえなぁ!だから王太子やるのが嫌んなったんだって言ってるだろが!何度言わせりゃ気が済むんだ!」


ジロリと俺を睨みつけながら相も変わらず同じ言葉を繰り返す男。


だが納得出来ないものは納得出来ない。



何故なら3・年・間・だ。

入れ替わってから魔王を倒すまで3年間もの間、この男は王太子を続けてきたのだから。


「………本当に王太子をやるのが嫌だと言うのなら、もっと早く……それこそ魔王を倒す前に俺との約束など無視して、こんな小国など見捨ててしまう事だって出来ただろう?

それを今更嫌だと言われて信じられるものか。」


勇者の剣を手に入れ、王太子としての地位があったとしても、アクの強い曲者揃いの貴族達や騎士達を束ねながら魔王軍と戦うのは一筋縄でいかない苦労ばかりだったはずだ。


それこそ俺が平民として苦労してきたことなど比べ物にならないほどの苦難の道程みちのりだったに違いない。


劣勢であった王国軍と魔王軍との戦いは熾烈を極めたことだろうし、3年もの戦いの中で無傷でいられたとも思えない。


こちらから頼んだ事とはいえ、縁もゆかりも無いこの国を嫌っていた男に背負わせるにはあまりにも大き過ぎる重責だった筈だ。


それなのにこの男は3年も王太子として戦い魔王を倒し、約束を守った。


「それにお前がこの国の為に色々と頑張ってくれていたことも噂で知っている。」


男は魔王と戦うだけでなく、国の意識改革も行ってくれていたようだった。


それにより横柄で差別的な態度を取る王侯貴族達はすっかりと鳴りを潜め、それまでの居居丈高な振る舞いが嘘のように貴族と平民達との関係性は良好なものへと変化していっていた。


漏れ聞いた話によると、王太子となった男が王都の奥深く逃げ隠れていた王侯貴族達を引っ張りだし戦場へと引きずり出して戦わせたらしい。


強硬な姿勢に当初は大反発を食らったそうだが、


『国の存亡を懸けた戦いに参戦せぬ者に貴族としての資格はない!出ぬと言うならば首を落とす!』


そう宣言して強硬な姿勢を貫き通したそうだ。



そして生命を懸けた戦いの最前線で王太子は貴賤を問わず全ての貴族や騎士、兵士達を扱ったという。


功績を出した者には報奨を。規律を乱した愚か者には罰を。地位や身分にとらわれず実力のある者を取り立てる。


元より敵である魔王軍は相手の貴賤など問わずに襲ってくる。


そんな中では身分など何の役にも立たないのだと、これまで身分の上に胡座をかいていただけの貴族達に骨身にしみるほど分からせたらしい。



おかげで3年前に平民落ちした当初は平民差別の酷さに驚き憤ることも多かったのだが、今では驚くほどに風通しの良い貴賤の少ない国へと変貌していた。



それに伴い他国との関係すらも良好に変わってきている。



元王太子として、自分には決して出来なかった男の力に、悔しいながらも素直に脱帽し感謝する思いだった。


魔王を倒し、国の気質を改革し、これほどまで国に貢献してくれた男こそが(まご)うことなき真の王太子だろうと俺は思う。


そんな男に『王太子をやるのが嫌だ』と今更言われても意味がわからないし、今更投げ出す必要がどこにあるのか理由も分からない。



それに



「……………来月にはフィオーナとの結婚式も控えているだろう?」


それこそが男の言い分に納得出来ない最大の理由だ。


男があれほど頑張って過酷な3年間を耐え抜き、王国に献身を捧げてきたのは彼女との未来を手に入れる為だったはずだ。


それ以外に男がこの国の為に働く理由などなかったのだから。


魔王と戦う勇者である王太子とそれを献身的に支える婚約者である公爵令嬢フィオーナの話は今や戯曲になるほど有名になっており、長きに渡る戦いの末に結ばれる二人の結婚式は全ての国民から待ち望まれていた。


片田舎の片隅に暮らす俺の所にも二人の結婚式を祝福する声は届いており、俺自身も二人の幸せを心から願っていた。


何より男には幸せになる権利があると思っている。



「やはりどう考えても、お前が王太子を辞めたい理由が見つからない。

……もしかして何かまた入れ替わりをせざるを得ないような問題でも起きたのか?

もしそうなら隠さずに本当の事を言ってくれ!

しがない農夫でしかない今の俺に何が出来るかは分からないが……出来ることがあるならば何でもするぞ!」



「……………………………。」



「これでも、お前がこれまでどれ程この国の為に尽力してくれたのか分かっている。3年間の道程も並大抵の苦労でなかったことも十分理解しているつもりだ。

だからどうかその献身に報いる機会をくれないか……?

お前には幸せになる権利があるんだから!」


 

誠心誠意、感謝の気持を込めて心から男に伝えた。


出来ることがあれば何でもしたい!そんな気持ちだった。




「……………………………。」




男はしばらく黙って俺を見ていた。




まるで俺の心の底を見極めるように……。




しかしフッと顔を緩めたと思ったが最後、途端に爆笑し始めた。




「……………………駄目だ……もうこれ以上聞いてなんねえ!!


アハハハハハハ!!!ヒヒヒヒヒヒ!!!クークククククク!!!!!」




「!!!!!!?????」




狂ったように笑い出し、ヒーヒーと腹を抱えて笑う男に思わずポカンとしてしまう。


男はひとしきり笑い終えると目に涙を浮かべて俺を見た。




「くくくっ……あんた……あんた……俺の事を随分と美化してくれてるみてぇだけど……買いかぶりすぎだぜ……アハハハハ。」


「何だと?」


男は笑い過ぎて余程苦しいのか、プルプルと震えながら、目に溜まった涙を拭った。



「ふー、くくっ……そうだなぁ………。まず第一に、あんたは俺が魔王を倒す為に3年もかかって苦労したと思ってるみたいたけど……それは違うぜ。」



「違う?どういう事だ?」 


意味が分からなくて小首を傾げた。



「う〜ん……つまり、3年かかったのは、手を抜いていたって事だな。」


「は?」


まったく意味が分からなくて素っ頓狂な声が出た。


そんな俺に吹き出しながら、男はニヤリと口角を上げた。


「プッ、分かんねえか?本当なら直ぐに倒せたのを、わざと3年かけて倒したって事だよ。」


「はあっ?」


ますます意味が分からなくて、更に大きな声がでる。


男の言葉は聞こえてきても頭が拒否したように理解出来なかった。



(本当なら直ぐに倒せた?)


(わざと3年かけた?)




「…………は?……はっ?

はあーーーーーーーー!!!!???」


やっと言葉が脳に到達したと思ったら、絶叫のような声が口から飛び出た。



「うわっ!すっげぇ声デケェよ!あとその間抜け面やめろ!

鏡で自分の阿呆面見てるみたいで気分悪いだろが!」


俺の声に耳をやられたとでもいうように、男が耳を塞いでしかめっ面で俺を睨んだ。


しかし俺はそれどころではない。


「お前!お前何を言っているんだ!?わざと3年かけて魔王を倒しただと!?そんな馬鹿な話を信じろと言うのか!?嘘も大概にしろ!!

一体どこにそんな事をする必要がある!?」


「馬鹿な話でも嘘でもねぇよ!ちょっとした演出ってやつだ!」


「え、演出だと!?」


またも理解出来ない言葉が飛び出しポカンと口が空いてしまう。


「だからその顔さぁ…………、あー……もういいや。

魔王をアッサリ倒しちまったら、魔王が大した事ない相手みたいになって、ひいては俺も大した事ないみたいに思われるかもしれないだろ?

だったらちょっとくらい大変なフリしてアピールした方が、頑張ってるって評価されるし、周りの奴らからも協力を得られて楽できるってもんだ。


それに苦労の末に倒したってことにした方が、話的に盛り上がるしウケがいいだろ?」


「ア……アピール………ウケ………?」


言葉自体は理解出来ても受け入れることが出来なくて愕然としてしまう。


「そっ!全ては俺の演技ってわけ!

だいたい縁もゆかりも無いこの国の為に俺がそんな頑張る理由わけないだろ?理解出来たか?」


「そんな馬鹿な!!だってお前は王国の改革にも取り組んでいたと………………。」


「ああ〜………なんか世の中じゃ王国の差別意識の改革だとか、他国との関係改善に努めた〜とか言われてるみてぇだけどな。 

ありゃ、結果的にそうなったたけで、俺としたら単純に気に入らねえ貴族共を戦場に放り込んでやっただけだ。

他国との関係ってのも、冒険者やってた時に仕入れた相手の弱みを握って、協力しねえならバラすって脅してやっただけだし。」


「なんだと!?」


「おっと、怒るなよ!理想の俺を作り上げるのはあんたの勝手だが、俺は嘘は言ってないぜ。そんな必要もねえからな。」


黒い笑みを深めて、小馬鹿にニヤリと笑う男にゾワリとした。



読んで下さってる方、有り難うございます。

平日が忙しい為、次の掲載は来週末になるかと思います。(多分)

宜しくお願い致します。

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