プロローグ :断罪と、列車の目覚め
――王都裁判所。冷たい大理石の床。突きつけられた罪状。
「セレスティア=フロレンティア。
貴女の婚約は破棄され、称号は剥奪されました。即刻王都より追放とする」
糾弾する声に、令嬢は一礼だけを返した。
言い訳も反論も、もはや不要。
それが“悪役令嬢”の最後なら、粛々と終えるだけのことだ。
「それでは――次の地で“余生”を愉しませていただきます」
その姿に、誰もが“潰れた花”を見た。
だが、彼女はすでに“新たな乗車券”を握っていた。
国境近くの放棄された谷。霧の立ち込める古代魔導都市跡。
セレスティアが足を踏み入れたのは、王国すら存在を忘れた「魔導列車《オリエント=クロノス》」の眠る廃坑だった。
かつて父が語った。
《この世界には、動かぬが最も強大な兵器が存在する。鉄で編まれ、魂を持ち、国を貫いた魔導列車――》
その残骸の前で、セレスティアは懐から一枚の“技術顧問証”を取り出した。
「……さあ、目覚めなさい。
あなたと私の旅は、ここから始まるのですから」
【システム起動――確認中】
【魔導供給ライン接続――再構築】
【乗員登録確認:技術顧問ID No.00007 セレスティア=F=承認】
そして、時を超え、伝説の列車が動き出した。
車輪が唸りを上げる。
赤く鈍く光る魔導ランプが灯る。
路線図は白紙。だが、目的地は明白。
――「断罪された“悪役令嬢”が、“自分の物語”を始める場所」
そして、各駅のホームには問題と運命が待っているはずだ。