表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女を拾った探偵事務所  作者: 桐原コウ
第1章 帰宅は危険と隣り合わせ
8/12

暗闇の攻防戦

とは言え。

やはりそこは公園という限られた空間。

相手が二人や三人ていどなら、追いかけっこで逃げ切れたのだろうけれど、伊織と日向はそこの想定が甘かった。

結局、半包囲の態勢を敷かれ、逃げているうちにじりじりと公園の奥の方に追い詰められて。


木と木の間の切れ目。

少し開けた所に出てしまったかと思うと、突然、パッと強烈な光に照らしだされた。

その光源は、直径1mはあろうかという、異様に明るい巨大なライトだ。


伊織は幸い、その強い光が目に入る前に顔を背け、日向はそもそも抱きかかえられて伊織にぎゅっと抱き着いていたので、ライトの方を向いていなかったおかげで、目を眩ませられることは避けられた。

しかし。


前方には、そのライトを中心に据えて4人の黒スーツが横に並び。

開けた場所の両側にも黒スーツがいて。

さらに後ろからはここまで二人を追い込んだ黒スーツが4人、変わらず距離を詰めてきている。


そして、前で並んでいる4人の黒スーツの真ん中に、まるで黒スーツを従えているかのように白いスーツの男が立っていた。

この男だけはサングラスをかけておらず、代わりに白い中折れ帽を目深に被って、目元を隠している。


「さて、大詰めだ。

 とりあえず、真ん中まで出て来てくれるかな。」


白スーツの男が伊織と日向に声をかける。

しかし、伊織がそれに答えないでいると。


「君に選択肢はないよ。

 こっちは君をどうにでも出来るんだからね。」


白スーツがそう言って右手を軽く上げると、黒スーツが銃を構えた。

全員が、伊織に狙いを定める。

伊織が仕方なく、日向を抱きかかえたまま、その開けた場所の真ん中に進み出た。

その頃には背後から追いかけて来ていた黒スーツも追いついて来ていて、伊織を囲んでいる黒スーツと同様に伊織の背後から銃を構えた。


「じゃあ、まずはその子を降ろしてもらおうかな。」


それに、日向が伊織に抱き着く腕にぎゅっと力を込めた。

顔を伊織のすぐ横に寄せて来る。


「お兄ちゃん、今までありがとう。

 降ろして。」

「日向、大丈夫だから心配するな。」

「え?」


お互いにしか聞こえないほどの小さな声で言いあう。

それから、伊織は日向を抱く腕に一瞬力を込めてから、日向の返事を待たずに日向を地面にそっと降ろした。

日向がひっつくように伊織の横に立つ。


「じゃあ、日向ちゃんはこっちにおいで。

 そのお兄さんに無事でいて欲しいならね。」


白スーツのその言葉に、日向が恐怖に顔を歪めながら、伊織を見上げた。

その日向に、伊織がにかっと笑いかける。

そして、その次の瞬間。

伊織はそれまで邪魔にしかなっていなかった箒を大きく振りかぶって、思い切り投げた。

大きなライトに向かって。

伊織の突然の行動に黒スーツの男も、それから白スーツの男も反応出来ずにただ箒を見送った。

その箒は狙い違わず、ライトに突き刺さると、ぽん、と煙を上げながらライトが消えた。

突然、周囲に闇が落ちる。

それまで強い光で照らされていただけに、その落差は大きい。

それは、黒スーツは黒いサングラスをかけているので尚更だ。

白スーツも、突然、強い灯りが消えたことで視界を失う。


パン!


一発の銃声が響いた。

伊織と日向の背後から。

その音にわずかに遅れて、「ウグッ!」というくぐもった声が聞こえた。


「撃つな!

 囲んでるんだぞ、味方に当たるだろうが!」


白スーツの指示が飛ぶ。

その混乱し始めた場を後目に、伊織は再び日向を抱きかかえると、背後に向かって走り出した。

伊織はこのつもりでいたので、目が明るさに慣れないように、ずっと細めていたのだ。

だから、急に明かりが消えても大丈夫。

伊織はそのまま黒スーツの間を抜けて、林の中に突っ込んだ。


 ◇ ◇ ◇


伊織は日向を抱きかかえたまま、林を突っ切ると、道に出た。

ここまで来て、もう林に隠れる必要はない。

むしろ、木が邪魔なだけだ。

道沿いに、全速力で公園を駆け抜ける。

日向もぎゅっと伊織に抱き着いたまま、身じろぎ一つしない。

黒スーツはあの場に全員集まっていたらしく、途中で鉢合わせることもなかった。


そのまま入口に着いた伊織は、日向を抱いたまま片腕で柵に飛びつくと、片腕で身体を引き上げ、一気に柵を乗り越えた。

大切な物を抱くように日向を抱きかかえて道路に着地すると、伊織はそのまま一目散に品川駅の反対方向へ走り出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ