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少女を拾った探偵事務所  作者: 桐原コウ
第1章 帰宅は危険と隣り合わせ
6/12

深夜の逃亡者

ホテルを出た二人は手を繋いで、とりあえず国道15号を目指して歩いた。

周囲からは年の離れた兄妹か、仲のいい従妹同士くらいに見えるだろう。

日向は文句なしの美少女だが、伊織もその気になれば、そこそこ見れる容姿なのだ。

そのため、今、伊織は普段はやらないように髪をきっちりとかして整えて、ホテルを出る前に髭もしっかり剃って来た。


この時間、まだまだ人通りも多い。

とはいえ、日向が言っていた通り、伊織が一緒にいることで、相手の行動パターンも変わるかもしれない。

だから、警戒はしつつ、周囲の人にはそうと気取られないように気を付けながら歩く。


10分も歩くと、二人は国道15号に出た。

さすが都会、車がひっきりなしに走っている。


とりあえず出来るだけ車道とは反対側を、日向を車道と反対側にして歩く。

二人とも周囲に神経を尖らせているので、会話はない。

北品川駅の辺りから15号から逸れて八ツ山通りに出て、港南口を目指す。


そして、大通りを歩いているうちに品川駅に着いてしまった。

何気に近かったので、1時間もかからずに。

電車もまだ走っている。

駅前も賑やかだ。


とりあえず伊織がスマホで品川駅周辺の座れる場所を探して、交番付近にベンチがあるらしいことを見つけてそちらに移動した。

幸い、ベンチが空いていたのでそこに座る。

背後が階段なのが少々心許ないけれど、気配が感じ取れるように、出来るだけ階段の低い方に寄って座った。


「なあ、なんかずっとここにいればいい気がしないか?」

「うん、なんか、この3日間ってなんだったんだろうって今思ってるとこ。」


日向がちょっと落ち込んだ様子で答える。

実際にはそこまで落ち込んでいるわけではなさそうだが、ずっと明るくて賑やかな雰囲気だったので、その落差でずいぶんと落ち込んでるように感じてしまう。


「でも、それならそれで、何か手を打って来たんだろうなって思うけど。」

「ま、そりゃそうか。

 人混みに上手く紛れ込まれたら、返って気付きにくそうだし。」

「でも、銃撃の心配は減るね。」

「うーん、実は、それはあまり心配してないんだよな。」

「え、そうなの?」

「ああ。

 日向を狙われたら困るけど、それはなさそうだし。

 俺が狙われるんだったら、たぶん気付ける。」


何の気負いもなく言ってのける伊織を日向はびっくりした顔で見た。


「え、お兄ちゃん何者?」

「何者ってなんだよ。

 そんな大層なことじゃないよ。

 日向だって、自分に向けられた怪しい視線は感じるだろ?

 それと同じだよ。」


その説明でなんとなく理解したらしい日向が、納得顔で頷いた。


「そう言われてみればそうかも。

 でも、そうすると、やっぱりこういう場所より広い場所の方が対処しやすい?」

「結局のところ、相手次第だろうな。

 ただ、こういう場所だと歩行者が邪魔になって逃げるにしても、追いかけるにしてもやりにくい気がする。」

「じゃあ、一晩やり過ごすだけなら、木の多い公園とかの方がやりやすい?」


日向の質問に、伊織は追いかけられた場合と、日向を攫われて追いかける場合を頭の中で想像してみた。


「うん、確かにそうかもな。

 公園に行くか。」

「うん。

 それに、公園の方がなんか楽しいしね。」

「本当にお前は呑気だな。」

「だって、お兄ちゃんがいるもん。」


そう結論付けると、伊織は近くの公園を検索しようとスマホを取り出した。


「うーん、高輪森の公園にでも行くか。

 18時閉園だけど、まあ、柵乗り越えればいいや。」

「わ、不法侵入?

 大丈夫?」


日向はそんなことを言いながら、なんだかワクワクした顔をしている。


「公園だしな。

 見つかってもお叱りていどで済むだろ。

 朝も7時に開園だから、遅くならずに出てこれるぞ。」

「あ、出る時は普通に出るんだね。」


今度はちょっと残念そう。

何を考えているのか。


「普通に出れるんなら普通に出るさ。

 さて、日向、動いて大丈夫か?

 もう少し休むか?

 夜は長いぞ。」

「うん、だいじょぶ。

 行こ。」


日向はぱっと立ち上がると、伊織に手を伸ばした。

伊織もやれやれと立ち上がり、その手を取ると高輪森の公園に向かって歩き出した。


 ◇ ◇ ◇


深夜とはいえ、そこはさすがに品川駅近。

なかなか人通りが途切れない。

ただ待っていても怪しまれるだけなので、二人は周囲をぐるぐると5周くらいして、ようやく人が途切れたのを見計らって柵を超えて侵入した。


「お兄ちゃんのえっち。

 チャンスがあればすぐ触るんだから。」


最初は日向を肩車して柵の上に捕まらせて、そのままよじ登ってもらおうとしたのが、日向の腕力がなさすぎて、なかなか身体を上げられない。

そのうち、ぷらーんとぶら下がるだけになってしまったので、お尻を押してやったらそんなことを言われた。


「そんな場合じゃないだろ。

 だいたい、お前のような子供の尻を触ったって何も思わん。」

「だからお兄ちゃんはデリカシーがないのっ!」


日向はそんな文句を言いながら押し上げてもらうと、柵の向こう側に「えいっ!」と飛び降りた。

伊織は本当に「えいっ!」と掛け声をかけるのを始めて聞いた。


無事に日向が中に入ったのを確認すると、伊織も柵を超えて中に入る。

伊織は運動で身体を鍛えているので、こんなことは朝飯前だ。


「お兄ちゃんスゴいね。

 簡単に柵越えちゃった。」


待っていた日向が感心したように伊織を見上げる。


「ま、このていどはな。

 それより、奥に行こう。」

「うん。」


二人は公園の奥、木の建ち並ぶ辺りを目指して歩き出した。


 ◇ ◇ ◇


公園は18時に閉園するだけあって、灯りなどなく暗い。

ただ、都会の中にある公園なおかげで、真っ暗というほどではない。

その暗がりの中を、二人が手を繋いで歩いていると。


相手の仕掛けは、伊織の想定よりも早かった。

公園に入って少し歩いたところで、後方から人の気配がした。


「走るぞ!」


伊織は日向の手を取って、走り出した。

全速で走り出そうとして、後ろで日向がこける気配がした。

伊織の勢いに付いて行けず、足が絡んでこけてしまったようだ。

慌てて伊織が足を止めて日向に振り返り、がばっと抱き上げた。


「すまん、日向。

 焦って全力で引っ張っちまった。」

「ひどいよ、お兄ちゃん。

 痛かったんだから。」


日向が涙目で伊織を睨む。

話しながらも、伊織は日向を抱き上げたまま、追手の反対方向に向かって走り出した。

日向が伊織の首に腕を回して、ぎゅっと抱き着く。


「だから、すまんって。

 後で手当てしてやるから、今は我慢してくれ。」


日向の両膝はすりむけて血が滲んでいる。

でも、幸い、怪我はそれだけですんだようだ。


「分かった。

 抱っこしてくれたから、それでチャラにしたげる。

 でも、あたし抱きかかえたままで大丈夫?

 重くない?」

「大丈夫だ。

 お前一人くらい、猫でも抱えているようなもんだ。」


それで話は終わり。

後は全力で逃げるために二人とも黙った。

伊織は徐々に追手を引き離す。

と、伊織は前方右の横の繁みに人の気配を感じた。

後ろからは追手。

左に曲がる道もあるが、そちらからも人が走って来る足音が聞こえてくる。


一点突破。


伊織はそのまままっすぐに走った。

伊織が横を通り抜けようというタイミングで、繁みから男が飛び出してくる。

男の恰好はサングラスに黒いスーツ。

日向が言っていた追手と同じ格好。


その飛び出して来た男を、伊織は右足でしっかり地面を踏みしめて軸にして、走って来た勢いを利用して左足で蹴り飛ばした。

思わぬ反撃に、男は避ける暇もなくもろに蹴りを喰らい、後ろに吹っ飛んで元いた繁みに突っ込んだ。

もちろん、日向は抱いたままだ。

その光景を日向が目を丸くして見つめた。


「お兄ちゃん、スゴ。」


しかし、伊織はその声に答えず、すぐに前に向かって走り出した


とはいえ、ここは公園。

道もそんなに長くない。

それに、一晩中走り続けるのは・・・その気になれば出来るな、と、伊織はちょっと考え直した。

けれど。


「お兄ちゃん、林に入ろう。

 かくれんぼに引きずりこんだ方がいいよ。」

「そうだな。」


日向のアドバイスに伊織は素直に従って、道を逸れて植林に入った。

植林の中は木が茂っているだけあって外の灯りが届かず、真っ暗に近い。

完全な闇ではないけれど、あまり遠くは見通せない感じ。


と、いきなり人の気配!


どうやら気配を消して待ち伏せされていたようで、木の陰から伊織に向けて、腕が伸びて来た。

その手には銃が握られている。


「止まれ。」


銃口はピタリと伊織の頭に向いている。

日向を抱えたままで身動きの取れない伊織は、足を止めた。


「よし。

 そのまま、その子を下ろせ。」


その言葉に従うように伊織はその男の方に向いた。

次の瞬間。


伊織は予備動作なしに脚を振り上げ、黒スーツの銃を蹴り飛ばした。

いきなりの反撃に黒スーツも対応出来ず、銃が宙を舞う。

そして、伊織は蹴り上げた脚と逆の脚もつま先立ちにして蹴り上げた脚を高く掲げると、そのまま黒スーツの脳天に叩き落した。

いわゆる、踵落とし。

クリティカルヒットしたようで、黒スーツはその場に大の字になってのびてしまった。


伊織としては、本当はこのままこの黒スーツの持ち物を調べたいところだが、今は逃亡中。

それは我慢することにして、林の奥に向かって走り出した。

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