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少女を拾った探偵事務所  作者: 桐原コウ
第1章 帰宅は危険と隣り合わせ
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作戦会議

伊織は顔にかかるわずかな空気の動きに目を覚ました。

目を開けると、目の前に日向の顔がある。

ばちっと伊織と日向の目が合った。


「あ、ごめん、起こしちゃったね。」

「それは構わないが・・・。

 何をしてる?」

「え、あ、うん、ちょっとね。」


日向は、あははー、と笑って誤魔化しながら顔を離した。

それから、横を向いて、はあ、と溜息をつく。


「お兄ちゃん、もう少し寝てて。」

「いや、起こしたのお前だろ。

 何かあったのか?」


伊織の質問に日向は困った顔をした。

それから、何度か何かを言おうと口を開いては閉じて、というのを繰り返して、最後に、はあ、と再び溜息をついた。


「こうなったら仕方ないか。

 ごめん、お兄ちゃん、一人で出てくつもりだった。」

「一人で?」


言いながら、伊織は身を起こした。


「うん。

 今夜も追いかけられるだろうから、今のうちに一人で行こうかなって。」


日向が小さくなって、上目遣いに伊織を見ながら言った。

それに、伊織はじっと日向を見た後、ぽんと日向の頭に右手を乗せた。


「いいか、日向。

 お前はまだ子供だ。

 大人の庇護が必要なんだ。

 余計な気を回さないで、安心して護られてろ。」


優しく言い聞かせるように話す。

目を細めているおかげで、その顔は傍目には迫力があって怖いのだけど。

日向はその表情に籠められている本当の意味をきちんと受け取った。

それでも、ちょっと躊躇うように視線を落としたけれど、それから、思い直したように顔を上げて伊織を見た。


「うん、ありがとう、お兄ちゃん。

 それじゃあ、思いっきり頼らせてもらうね。」


とびきりの笑顔で。


「ああ。

 まあ、俺だけだと頼りにならないかもしれないが、所長もやる気になってくれてるからな。

 あの人はたいていの面倒事はなんとかしてくれるから、安心していいぞ。」

「ううん、お兄ちゃんだから、頼りにするんだよ。」


無条件の信頼の眼差しに、伊織は照れたように視線を逸らして斜め上を見た。

それから、また日向を見て、日向の頭に乗せたままの右手でわしゃわしゃと頭を撫でた。


「おう、任せろ。

 じゃあ、もう一人で行く、なんて言わないな?」

「うん。」


嬉しそうに日向が頷く。

顔を上げると、真面目な表情で伊織を見つめた。


「それじゃあ、お兄ちゃんに相談。

 たぶん、追手はホテルの中でも追いかけてくると思う。

 だから、いっそのこと、もう今からホテルを出て、やりすごせるようにしようかなって思うの。

 どうかな。」

「なるほど。

 確かにその方がよさそうだ。

 日向は賢いんだな。」


突然のお褒めの言葉に、えへへ、と日向の相好が崩れる。


「だが、とりあえず、ホテルを出る前に今後の方針を決めておこう。

 とりあえずは大阪の事務所に戻るってことでいいかな。」

「うーんとね、お兄ちゃん。

 最終目的は、あたしの追手の正体と目的を突き止めて、追いかけるのを諦めさせることだよ。」


確かにその通りだ。

伊織は目の前のことに集中してしまい、その発想はなかった。

行動指針は、ここから考えていくべきだろう。


伊織は日向の洞察力に驚いたが、それとは別に安心した気持ちもあった。

こう言ってくれるということは、伊織を巻き込んでしまうことを、受け入れてくれたということでもあるから。

感心した伊織は、目を細めて日向を見た。


「あたしが日中に移動してる時、誰かの視線は感じなかったの。

 それなのに、夜は正確にあたしを追いかけて来た。

 だから、日中の監視は視線を感じない、目に付かない物でやってたと思うんだよね。

 だけど、都会で望遠鏡や双眼鏡で監視なんて現実的じゃないし。

 ドローンなんかは街の上を飛ばせないし、ヘリコプターとか飛行機も、時々は見たけど、ずっとは飛んでなかった。

 そうすると、あと考えられるのは2つ。

 コンビニやレストランなんかの監視カメラか、監視衛星。

 どっちにしても、一筋縄ではいかない大きな組織だと思う。」


そして、続けて日向の口から出て来た言葉に、伊織は先ほど以上の驚きを受けた。

ここまで来ると、こんな小さな子供が考えるようなことではない。

と言うか、そもそも並の大人でもこんなことまで考えないだろう。

それも、追いかけられながらだ。

そう言えば、後から役に立ちそうだから、と言って逃走ルートも覚えていると言っていたことを思い出した。


「心当たりはあるか?」


伊織の質問に、日向はふるふると首を振った。


「よく分かんない。

 だって、3日前まで、普通に暮らしてたんだもの。」

「まあ、そうだよなぁ。」


伊織は日向の言葉で受けた衝撃も抜けて、ちょっと落ち着いた。


「うーん、こうなると所長の知恵も借りたいところだな。

 でも、この時間に所長と連絡が取れるとは思えないしなぁ。」


もう22時すぎ。

普段なら事務所には伊織がいるから電話が繋がるが、当の本人がここにいる。

そして、所長に直接電話をかけても出てくれた試しがない。


「じゃあ、とりあえず今晩は逃げ切って、明日の朝に相談だね。

 お兄ちゃんいるから、一人くらい上手く捕まえられないかな。」

「頑張ってはみるが、捕まえれたとしても、そう簡単には口を割らないと思うぞ。」

「あ、お兄ちゃん、捕まえる自信あるんだ。」


ちょっと意外、という感じで日向が言った。

確かに追手を捕まえるなんて普通は考えないな、と伊織も思った。


「ああ、まあ、こう見えて荒事には慣れてるんだ。」

「そっか。

 じゃあ、機会があれば、あたしが囮になってお兄ちゃんが捕まえてみる?」


日向の提案を、伊織はちょっとだけ頭の中で考えてみた。

結論。

ダメだ。


「いや、相手の目的が分からない以上、そんな危険は冒せない。

 あくまで、日向を護ることに重点を置く。」

「ありがと、お兄ちゃん。

 じゃあ、よろしくお願いします。」


日向がペコリ、と頭を下げる。


「ああ。

 そうすると、今晩はどう逃げるかな。

 こっちは土地勘ないんだよなぁ。」

「あ。」


日向が何かに気が付いたようにハッと声を上げた。


「どうした?」


日向が申し訳なさそうに伊織をチラッと見る。


「うん、その、お兄ちゃん一緒だと、あたし一人の時とちょっと違う危険がありそうなことに気付いた。」

「とは?」

「お兄ちゃん関係ないから射殺される可能性。」

「いきなり物騒になったな。」


とはいえ、所長がかなり警戒していた様子だったので、伊織はさほど驚いていない。

そんなこともあるか、というていどだ。


「あれ、あんま驚いてないね。」

「まあな。

 所長が警戒してたから、相当危険だろうとは思ってる。」

「それが分かっていて、護ってくれるって言ってくれてたんだね。

 ホントにありがとう。

 それから、最初に言わなくてごめんね。

 今、気づいたんだ。」


日向が頭を下げた。

そんな日向の頭を、伊織はぽんぽんした。


「大丈夫だ。

 気にするな。」

「ありがとう。

 でも、このことを考えると、あたしがやってたみたいに裏道に隠れながら逃げるよりも、大通りを逃げた方がよさそうだね。」

「どうだろうな。

 遮蔽物がなかったら、スナイパーなんかが狙撃してきそうだ。」

「あ、そっか。

 うーん。」


日向が目を瞑り、腕を組んで首を傾げて考える。

伊織はその頭のうなじを眺めながら、覚悟を決めた。


「俺、それなりに殺気には敏感なんだ。

 少なくとも日向は大丈夫だろうし、とりあえず大通りを移動するようにしよう。」


言われて、日向が腕を解いて心配そうに伊織を見た。

それに、伊織は目を細めて見返した。

本人としては笑みを浮かべたつもりだったが、傍から見れば威圧しているように見える。

でも、日向は伊織の意図をきちんと受け取った。


「分かった。

 ありがとう、お兄ちゃん。」

「じゃあ、とりあえず大通りを品川に向かって歩いて行くか。」

「うん。」


これで、とりあえず今晩の方針は決まった。

伊織は一つ頷くと、再び日向の頭にぽんと右手を乗せた。


「じゃあ、そろそろホテル出るか。」

「そうだね。」


伊織はおにぎりとお茶、殺虫剤の入ったリュックを日向に背負わせた。

これくらいなら大した重さではないし、逃げる邪魔にはならないだろう。


それからフロントに鍵を返して、二人はホテルを出た。

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