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少女を拾った探偵事務所  作者: 桐原コウ
第1章 帰宅は危険と隣り合わせ
10/12

新幹線での襲撃

新幹線に初めて乗る日向は、駅に入るところからすでにお上りさんだった。

キョロキョロキョロキョロ。

周囲を見回して、何かを発見しては楽しそうに伊織に報告する。

伊織はそれにはいはいと相槌を打ちながら、周囲に警戒の目を巡らせていた。

昨晩、日向は言っていた。

相手は、コンビニやレストランの監視カメラで日向を監視している可能性があると。

つまり、まだ追手がかかる可能性があるだろうから。


品川駅には商業施設も入っているが、まだ早いので、開いている店は少ない。

でも、とりあえずコンビニは開いていたので、二人は朝食を買うことにした。

伊織は昨晩、念のために買ったおにぎりで済ますつもりだけど。

日向には好きに選ばせて、結局、日向もおにぎりにした。

なんでもコンビニおにぎりという物を一度食べてみたかったらしい。

ともあれ、おにぎりにお茶を買って、二人は新幹線ホームに向かった。


 ◇ ◇ ◇


新幹線ホームに、新幹線が入って来る。

日向がゲートの前でぴょんぴょんしながらその様子を見ようとしていたので、伊織は後ろから抱え上げて肩車をしてやった。

日向ははしゃいだ様子でお礼を言うと、じっと新幹線が入って来る様子に見入った。

新幹線が入って来ると、ゲートがゆっくり開いて行く。

今度は日向を降ろしてやって、ゲートが開いて行く様子を間近で見えるようにしてやったら、やっぱりはしゃいでいた。


品川駅は新幹線が到着してから発車するまでの時間が短い。

伊織は日向の手を引いてさっさと新幹線に乗り込むと、幸い空いていた一番後ろの席の窓側に日向を座らせた。

自分は出入台側。

始発だけあって、自由席でもガラガラだ。

自由席なのは、当然、金銭的な理由。

グリーン車なんてもっての他、指定席代ももったいない。

でも、日向のことを考えて、初めてで長時間の列車旅は厳しいだろうと、ひかり号ではなくのぞみ号にしたのだ。

伊織としてはこれでも奮発しているつもり。

まあ、ひかりとのぞみで320円しか差はないのだけれど。

細かいツッコミは不要だ、と伊織は誰にともなく思った。


はしゃいだ様子の日向は、きちんと靴を脱いで窓側を向いて正座しながら外を眺めている。

出て行くホームを見ているだけでも楽しいらしい。

その後は、高速に移り行く景色にはしゃいだ声を出していた。

もちろん、うるさいのは周囲への迷惑なので、伊織が注意してからは静かに騒いでいたが。


そして、品川駅を発車し、新横浜を過ぎて10分。

日向は青白い顔をしていた。


「うううん、お兄ちゃん、ここ、空気悪すぎない?

 気持ち悪い・・・。」


さほど混んでいるわけではない社内だけど、人いきれに酔ったようだ。


「うーん、今日はそんなでもないんだが。

 まあ、体質的なもんだから仕方ないな。

 とりあえず、出入台に出よう。

 ちょっとはマシだ。」

「うん。」


二人は客室を出ると、乗降口の所に立った。

日向がすうう、はああ、と深呼吸する。


「うん、ちょっとマシになった、

 ありがと、お兄ちゃん。」

「もう少し、ここにいよう。

 いちおう、ここからでも窓の外は見れるぞ。」

「うん!」


日向は返事をすると、窓から外を見始めた。

伊織はその背後に立って、列車が揺れてバランスを崩した時にフォロー出来るようにする。

そうして10分ほど。

日向の気分もマシになったであろう頃合いを見て、伊織が声をかけた。


「日向、そろそろ席に戻って朝食にしよう。

 少しの間なら、客室にいても大丈夫だろ?」

「うん、たぶん。

 そうだね、お腹空いたし、朝ごはん食べたいかも。」


日向が振り返って頷く。

二人で席に戻って、朝ごはん。

まあ、コンビニおにぎりだが。

二人はコンビニおにぎりを食べてお茶を飲んだ後、また日向の気分が悪くならないうちに、乗降口へと戻った。

しばらく席に戻らないつもりなので、日向にリュックを背負わせておいた。


 ◇ ◇ ◇


あと5分ほどで名古屋駅。

といったところで、一人の乗客が出入台を歩いてきたかと思うと、さっと伊織の背後に立った。

伊織の背中に尖った物を突き付ける。


「静かにしろ。

 こっちを見ないで、両手を上げるんだ。

 不審な動きをするなよ。」


小さな声で脅してくる。

小さい、と言っても、伊織は背が高く、相手と頭の位置に差があるので、そこまで小さい声ではなかったけれど。

そして、それが聞こえたのだろう、日向がビクッとして振り向いた。

それで状況を察したらしい日向が、不安そうな顔で伊織を見上げて来る。

そんな日向を安心させようと伊織は笑みを浮かべたが、伊織の表情筋はただ目を細めただけで、とても笑顔に見えない。

それでも、日向には意図は伝わったようで、日向は少し視線を落とした。


「何者だ?」


伊織が目を細めて日向を見たまま、ゆっくり両手を上げた。

不覚。

殺気などなかったし、車内を移動する乗客全てにいちいち反応していられなかったので、さほど気にしていなかったのだ。

名古屋が近づいてきて、ここまで1時間半近く。

何もなかったので、少し油断していたのもある。

と、思っていると、日向の不安そうな表情が、ハッと何かに気が付いたような顔になり、それから悪戯でも思いついたようなワルイ笑顔になって伊織を見た。。


「とりあえず、このまま付いて来てもらおうか。」


その笑顔のまま、日向が伊織にだけ見えるように指先で伊織の足元を指差し、くいくいと左右に振った。

ちょっと意味が分からずにさらに目を細めた伊織に、日向は今度は右足を伊織の足の間に置くと、伊織の両足を蹴るように左右に動かした。

どうやら、足を開けと言いたいらしい。


背後の相手の様子に意識を向けつつ、伊織はゆっくり足を開いた。

すると、意図が通じて安心したのか、日向がにっこり笑うと、伊織の股下に向かって殴りつけた。

突然の日向の行動に伊織が驚いていると、背後から「ぐうっ!」とくぐもった声が聞こえて来た。


どうやら、日向が相手の股間を殴りつけたらしい。

いくら日向に力がないと言っても、全力で急所を殴りつけられては、ひとたまりもないだろう。

伊織と相手に体格差があったがゆえに取れた強硬手段。

よく思いついたものだと伊織は感心しながら、相手にちょっと同情した。


ちなみに日向はばっちぃばっちぃと殴りつけた手をぶんぶん振っている。


日向のおかげで、背中に突き付けられていた銃口が下がる。

それに、伊織は振り向きざまに銃のあった辺りを殴りつけた。

相手が銃を取り落とす。

伊織はそのまま相手に体当たりをして、車両の反対側に吹き飛ばした。

がん!と大きな音を立てて男が反対側の扉に背中からぶつかる。

その間に伊織は銃を拾・・・おうとしたら、すでに日向が拾っていた。


「危ないから貸せ。」


銃を構えようとしている日向から取り上げる。


「あー!

 あたしが拾ったのに!

 あたしの活躍で危機を脱出したのに!」


それに、日向が抗議の声を上げる。

しかし、伊織はそれを無視して銃の安全装置がかかっているのを確認すると、ポケットに入れた。

それから、相手に近寄る。

男は扉に激突した時の衝撃で失神しているようだ。


相手はご丁寧に上下の黒いスーツ。

さすがにサングラスはしていない。

20代後半くらいのようだ。

銃を扱いなれているのだろう、右手には銃ダコが出来ている。

それから伊織は全てのポケットを漁ってみたが、ポケットに入っていたのは乗車券のみだった。

東京から博多までの乗車券だ。


「お兄ちゃん、何か分かった?」


男を調べている伊織の肩口から、後ろ手に手を組んで、ひょいっと男を覗き込みながら日向が尋ねた。

抗議を聞いてもらえないのは諦めたらしい。


「いや、これといったものは持ってないな。」

「この人、きっと品川で追いかけて来た人達とは別口だよ。」


日向が口にした事実に、伊織が目を細めて日向に振り向いた。


「どういうことだ?」

「同じ黒スーツだけど、スーツの素材が違うよ。

 品川の黒スーツはみんな半光沢の生地だったけど、この人のは全然光沢ないよね。」


言われても、伊織は全然分からなかった。

そもそもスーツの素材なんて気にして見ていない。


「なるほどな。

 さすが日向、よくそんなことに気が付くな。」

「ふふーん。

 褒めて褒めて。」


日向が伊織に向かって頭を差し出してくる。

それに、伊織は日向の頭をくしゃくしゃと撫でた。


「エライエライ。

 さて、それじゃあ、こいつをどうするかだな。

 まさか縛って連れてくわけにはいかないし。」

「本当は探偵事務所に連れて行きたいところだよね。」

「まあな。

 と、言っても、さすがに縛ったこいつを連れて街中を歩けば、ただの不審人物だ。

 とりあえず、車掌に預けて、後は任せよう。」

「スマホで写真撮っとけば?」


何気なく日向が言った一言を、伊織は一瞬、理解出来なかった。

その意味が頭に浸透すると、がっくりと肩を落とした。


「うん、そうだな、日向の言う通りだ。」


なんでそんな簡単なことを思いつけなかったのか。

伊織は猛省した。

そんな伊織に、日向は背後からポンポンと肩を叩いた。


「お兄ちゃん、普段ならすぐに思いついても、肝心な時に限って出てこないことってあるよ。

 気にしない気にしない。」


一回りも下の女の子に慰められて、さらに落ち込む伊織。

とはいえ、そんなことをしている場合ではない。

黒スーツが気が付く兆しを見せたので、顎に一発入れて再び気絶させた後、顔と全身の写真を撮ってから担ぎ上げると、背中に背負う。


「お兄ちゃん、乗務員室は8号車みたい。」


車内案内板を見て来てくれたらしい日向が伊織に言う。

そこに。


『まもなく名古屋です

 東海道線、中央線、関西線と・・・。』


もうすぐ名古屋に到着の車内アナウンスが響いた。

駅に着くと車掌は乗客の見回りに行くので、乗務員室から出てしまう。

二人は急いで乗務員室へと向かった。

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