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07.事件の真相

「な……な……な……」


 あまりのことに、王子は開いた口が塞がらない。

 そんな王子に、冷ややかな目を向けた公女が口を開いた。


「2年前、わたくしの身に事故が起きたと、そう仰いましたわね?」


「え……?あ、うむ、そうだ!」


「その事故、自作自演(・・・・)だと申したら、殿下はどうなさいます?」


「…………………………はぁ!?」



 2年前、公女が13歳の暑季に起きたとされる誘拐暴行事件。実はそれは全て、公女が自ら仕組んだ自作自演であった。

 学園の入学とともに発表された婚約者の公募。それに対して今ある婚約を破棄してまで応募する令息が続出したことに公女は怒りと失望を覚えたのだ。自分の真に望むもの、それを提示した者を(おっと)に選ぶと宣言しているにも関わらず、自ら望むはずのないそのような愚行が大量に引き起こされたことで、彼女は配慮が足らなかったと思い知った。

 また、唯一の条件として付けた『公女が真に望むもの』の提示も、家門同士の事業提携のメリットだとか立候補者の家門の資産価値だとか、誰にも負けない美貌だとか知性だとか生まれの高貴さだとか、そんなものばかりで公女はことのほかガッカリしたのだ。


 だから彼女は婚約者の選定方法を見直したのだ。つまり、自分を敢えて傷物に(・・・)仕立てた(・・・・)のである。


 あの時、街へ連れ立って出かけたのは全て公爵家配下家門の令嬢たちである。当然、その護衛たちも公爵家の配下だ。彼ら彼女らはあらかじめ指示された通りに街を歩き、公女が居なくなったと騒ぎ立て、そして王都守護の騎士団詰所に駆け込んで大捜索を繰り広げさせた。

 その間に公女は配下とともに発見現場であれやこれやと偽装し、そして気絶したフリをして巧みに()()()誘導させた(・・・・・)王都騎士団に発見させたのだ。

 その上で騎士団とほぼ同時に現場に到着した配下の護衛たちに囲まれて公爵家に戻り、その夜に治癒系の魔術を得意とする青加護の魔術師や魔術に依らない医術を駆使する治癒師などを控えさせた上で、自らの首を突いて、わざと(・・・)傷をつけた(・・・・・)のである。


 予想通り、公爵家の地位や財産、権勢あるいは公女本人の美貌や完璧さなどに擦り寄ろうとした強欲な男どもは、潮が引くように婚約を辞退していった。その上でなおも候補に手を挙げるのは曰くや問題のある相手のみだったが、それすらも織り込み済みだった。

 傷物の風評がある中でも敢えて手を挙げてくる、そんな者たちの中にひとりでも公女の条件を満たす者がいればいい。むしろそれは問題ある立候補者の中に紛れずによく目立つことだろう。

 だがそんな、「公女が真に望むものを差し出す候補者」はなかなか出なかった。そのせいで傷物の風評に丸2年も晒されるハメになったことだけが公女の誤算である。


 そして彼女がこのような、敢えて自分の名誉や尊厳を傷つけるような振る舞いをしてまで求めたものがもうひとつある。それが事件の真相を捏造し、それを突き止めたと(・・・・・・)称する(・・・)嘘つき(・・・)である。

 公女は王家が、王命などで王族の子弟を無理やり婚約者に仕立てることを危惧していた。公募から自作自演まで3ヶ月に満たなかったのは、そうした王家からの横槍を警戒して早めに手を打ったためでもある。

 だが表向き王家からはなんのアクションもなく、そのうちに公女は自分の求める最良の婚約者を見つけてしまった。だったらばと彼女は、今度は婚約者を餌として釣り上げようと画策したのだ。


 もちろん、本来やって良いことではないし、婚約相手にも失礼極まりないことだ。だが選んだ婚約者がなんの力もない子爵家の次男で、彼には確実に身の危険が迫るであろうことから、どうせなら徹底的に炙り出すことにしたのだ。

 そしてそれは、自ら選んだ婚約者が最初に言い出した事でもあった。だからこそ公女も実行に踏み切れたのだった。






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