第三話 ヘクセンへの旅とお爺さん
ライゼが孤児院に戻った後、送別会が始まった。
「ライゼが居ないと寂しくなるよ」
「ふん!私は寂しくなんか…」
「生きていればまた会えるよ〜」
「運命は…収束する…ふふ…」
「肉ぅ」
「(2名ほどおかしいけど…やっぱり皆と別れるのは悲しいな…)」
前世がある転生者だとしても…彼はまだ12歳の子供、何年も共に生活した家族との別れは悲しいのだ。
「ほらガキ共、渡すものがあるんだろ?」
「「あ!シスター!/ちょっとッ!?/あー/想定外/肉ぅ」」
シスターの発言に子供達が怒る。どうやらサプライズで渡したかったようだ。
「うっさいね!ほら、さっさと渡した渡した!」
「んもー、はいっ、あげる」
「これは…」
皆から渡されたのは、青い糸で6つの水瓶の模様が縫われたローブ。この教会が信仰してる神様が持つ神器の模様だ。
「皆で縫ったんだ〜」
「これ着て風邪引くんじゃないわよ!」
「これには神の加護が…」
「これあれば肉、食えるよ」
「いちばん上手い刺繍はシスターだよ!」
「こらッキント!」
シスターが恥ずかしそうにキントの頭を叩く。水瓶の模様はそれぞれ特徴があって、誰がどれを縫ったのかがよく分かる。
「ありがとう、キント、ツンネン、デレーネン、シック、マール…シスター…大事にするよ」
その後は普段よりも豪華なご馳走を皆で食べて、床に就いた。
ーーー
その夜、他のみんなが寝ている中でライゼは眠れなかった。
「(なんで突然追い出される事になったんだろう…口減らしとは言ってたけど、この孤児院はそこまで貧乏では無いし…)」
「…寝るか」
深く考えると明日に障る。ライゼは考えるの辞めて眠りについた。
ーーー
翌日、ライぜの見送りには孤児院の皆が来てくれた。
「それじゃあ行くよ…皆元気でね」
「「う”ぁ”あ”ぁ”ぁ”ラ”イ”ゼ”行”か”な”い”で”」」
見送りに来た子供達が号泣しながら抱きついてくる。
ライゼも少しウルっとしてしまうが、頑張っていつも通りの顔をキープしている。
「大丈夫だよ、またいつか会えるから…みんな元気でね?」
「…ッグズッ…ゲホッゲホッ」
「(ああ…噎せちゃってる…)」
噎せた子供達の背中を叩きながら、シスターが話しかける。
「いいかいライゼ、ヘクセンに着いたらファルシュという老婆を探しな、必ず力になってくれるだろう」
「わかってるよ…シスターも元気でね」
「それと……」
「?」
シスターは少し真剣そうな顔をすると、ライゼの耳元へ近づき囁く。
「…村を出て、町の乗合馬車の乗り場に着くまで…誰かに話しかけられても無視するんだよ…」
「…え?」
何を言っているのか理解出来ない…とライゼは困惑するが、シスターは困惑など関係無しに続ける。
「極力目も合わせないようにするんだよ、守らなかったら呪うからね」
「(聖職者が呪うなんて言っていいの!?)」
「ほら、さっさと行った行った!」
困惑しながらライゼは皆に別れを告げ、村の外へ向けて歩き出す。その背中を見つめるシスターがボソリと呟く。
「…どうかあの子に…溢れんばかりの出逢いと祝福があらんことを…」
ーーー
「……(なんであんな事を…)」
「邪魔だ小僧!どけ!」
村の外へ向けて考えながら歩いていると、前方から怒号と共にかなりの速さで装飾された馬車が迫る。
「わブッ!?」
ライゼは咄嗟に道の脇に飛び込み、衝突を回避した。
「あッぶねぇ!(びっくりしたぁ…今の…)」
馬車との衝突を避ける際、ほんの一瞬馬車の中が見えた。中には悪そうな顔をしたふくよかなおじさんと、白髪赤目の美少女が乗っていた。
馬車とすれ違った際、アルビノの少女と目が合った気がする…それと同時に変な感覚が襲った気がするが、ライゼは顔を横にブンブン振る。
「(あの子…アルビノかなぁ?こっちでも迷信とか太陽光とか、大変なのかな…というか変な…)」
「…まあいいか…えっと地図地図…」
ライゼは荷物から地図を出しながら歩き始める。
ーーー
村を出たライゼは地図を頼りに1時間半ほど歩き、近くの町に到着した。だがここで想定外の事態が‥
「乗合馬車が‥今日はこない‥?」
なんと今日は乗合馬車がお休みの日、絶望でライゼは崩れ落ちる。
「‥‥‥はぁ」
ライゼは近くの小さな丘の樹木を背に座り込む。時折吹く‥心地よい風に髪をなびかせながら、今後のことを考える。
「(困ったなぁ‥野宿は危ないし‥かといって宿もお金がかかるし‥にしても‥だめだ‥眠‥ぃ‥)」
長時間歩いたことによる疲労と心地よい風で、うとうと‥ライゼは目蓋を閉じ、そのまま眠ってしまった。
ーーー
さらりとした風を感じる、ザクッザクッと草を踏む音が聞こえる。ライゼがその音に反応するように目を開ける‥と同時に
「よう、元気か」
知らないお爺さんに、声をかけられた。